嘘つき(柚木視点1)

「はぁー…」


私は大きなため息をついていた緋月に声をかけた。


「どうしたのー?そんな大きなため息ついて」


なんだか悩んでそうな顔をしている。また1人で抱え込んでるな?


「いや、ちょっとな…」


緋月はいつも1人で抱え込んでしまう癖があった。だから私が話して、と言わないと緋月は話してくれない。


「…緋月、私たち幼馴染なんだよ?なんでも相談してよ!」


幼馴染なんて言ったけど私は今の関係に納得してるわけじゃない。もっと先に進みたいと思っている。好きな人の役に立てるならこれほど嬉しいことは無い。


私がそう言うと緋月は少し躊躇いがちに話し始めた。


「…実は父さんが再婚したんだ」

「え?!いつの間に?でも良かったね。おめでとう」


私は小さい時から緋月の家族と関わりがあった。だから緋月のお母さんが亡くなったことも知っていたしその後緋月のお父さんがどんな状態になっていたのかも知っている。その間緋月がどんな苦労をしたのかも。そっか、緋月のお父さん、遂に乗り越えたんだ。


「…え?それでなんでため息なんてついてたの?」


ん?ならどうしてため息なんてついていたのだろう。お父さんのことを大切に思っている緋月なら喜びそうな話なのに…


そう思っていると再度緋月が口を開いた。


「父さんの再婚相手の人はめちゃくちゃいい人なんだ」

「うんうん」


やっぱりため息つく理由なんてないじゃん。


「問題なのがその再婚相手の人が連れてきた姉妹なんだよ」

「うんうん…うん?」


うん?


「緋月?ちょっと確認なんだけど姉妹って女の子だよね?」

「当たり前だろ?姉妹なんだから」


ま、まずい!これは相当にまずい!はっ!もしかして緋月の悩みってその姉妹にドギマギしてるとかそんなことなの?!


「それでその姉妹が俺のことを何故だか毛嫌いしてるみたいなんだよ」

「ほっ…」


あ、なら安心だ。


「え?」


いや言い方が悪かった。緋月を取られる心配がなくて良かった。


「あっ!いや…た、大変だねぇ。で、でも多分新しく増えた家族って言うのがまだ受け入れられてないんだよ!だから緋月から歩み寄ってあげたらいいかもね?」


私は慌てて言葉を吐き出した。


「俺から…か」


緋月はそう言うと少し考えるのか少しの間を開けた。


「ありがとうな。柚木。お前に相談して良かったよ」

「ううん。気にしないで。緋月の役に立てて良かった」


本当に緋月の役に立てて良かった。その新しく出来た姉妹さんも緋月と関わっていくうちにきっと緋月の優しさに気づくよ。だから頑張って、緋月。


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それから何日か経った日、緋月の友達の裕也君が私に話しかけてきた。


「なぁ、美鷺」

「ん?裕也君?どうかしたの?」


別に私は裕也君とよく喋ると言う訳では無い。それなのに話しかけてくるということは何か伝えたいことでもあるのだろうか?


「今朝の緋月の顔見たか?酷い顔だったぞ」

「え?何それ。どういうこと?」


緋月の体調が悪いのかもしれない。


「…あいつは大丈夫だって言ってたが俺はそうは見えなかった。とにかく顔色が悪いんだ。少し気にかけておいてやってくれないか?」

「もちろんだよ」


私は妙な使命感に駆られながらお昼休み、緋月の元へ急いで駆けつけた。


「緋月!だ、大丈夫なの?!」


私は周りの目など気にしないで勢いよく教室の扉を開いて大きな声で緋月にそう言った。


「うおっ!ゆ、柚木?どうしたんだ?」


私は教室内に緋月を見つけると詰め寄るように近づいた。


「裕也君から緋月の顔色がヤバいって聞いて急いできたの!」


緋月の顔を見る。明らかに疲れきっているような表情だ。一目見ただけで普通の状態では無いことがわかる。


「いやまぁ大丈夫だよ。なんともないから」


また、まただ。また1人で抱え込んでいる。


「…ねぇ、言ったじゃん。私たちは幼馴染だって。なんでも相談してって言ったよね。それとも私じゃ力不足?」


ここで力不足だと緋月から直接言われてしまえばそこで終わりだ。だがここで引き下がる訳には行かない。


「…いや、そんなことないよ。柚木、聞いてくれるか?」

「うん!任せてよ!」


良かった。私はまだ緋月に必要とされてる。


「うん」

「それでも距離は縮まらなかった。現状維持、もしくは離れてる」

「うん」


距離が縮まるのはいいことだが縮まりすぎてもそれはそれで嫌だ。だって緋月と姉妹の2人は血が繋がっていなのだから。


「俺もうどうすればいいかも分からなくてさ」


緋月は疲れた笑みを浮かべながらそう言った。


「…何かきっかけがあれば変わるかもね」

「きっかけ?」

「うん。例えば買い物に一緒に行くとか、一緒に料理を作るとか」


本当はそんな提案をしたくなかった。でも、でも今の緋月は見てられない。このままならいつか本当に壊れてしまう。


「…うん。そうだな。そうしてみるよ。相談に乗ってくれてありがとな」

「ううん。今度からはちゃんと私に遠慮せずに相談してね?」

「あぁ。また困ったら相談させてもらうよ」


緋月はいつもとは違う笑顔でそう言った。なんで?なんでそんな顔してるの?いつもみたいに無邪気な笑顔を見せてよ。そんな気を使ったような顔しないでよ。

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