バイト
バイト先は案外早く決まった。柚木が家を訪ねてきてから5日後には決まった。
仕事は皿洗いや調理だった。ちょうど人数が足りなかったファストフード店の面接を受けたら受かったという感じだった。柚木もそこを受けて受かっていた。
バイト初日の日、俺たちは制服に着替えて店内に立っていた。
「私、バイト初めてだから緊張するよ」
横で柚木がそんなことを言っている。確かにいつもより表情が固いような気がする。
「俺も初めてだから緊張する…」
かくいう俺も緊張していた。体に無駄な力が入っていることを自覚できる。そんなことを柚木と話し合っていると俺たちの前に派手な人がやってきた。
いかにもギャルと言ったような風貌で髪の毛を金髪に染めてネイルも派手だ。そんな人が俺たちと同じ制服を着ていた。
「あー、君たちが新しく入ってきた子?」
「そ、そうです」
俺は少し言葉に詰まりながらも肯定の意思を示した。
待てよ?こういうことを聞いてくるってことはもしかして俺たちこの人に仕事を教えられるんじゃ…
「私、四条しじょう 真由まゆ。今から君たちに仕事を教えるから。よろしく」
やっぱりか…俺はどうもこういう人は少し苦手なんだけどな…
「俺は比島ひじま 緋月ひづきです。よろしくお願いします」
そう思いながらも自己紹介をする。
「わ、私は美鷺 柚木です。よろしくお願いします」
そんな俺に続いて柚木も自己紹介する。やっぱり柚木は緊張してそうだった。…ここは俺がしっかりしないとな。何もかも柚木に頼る訳にはいかない。俺も柚木を助けてやれるようにしないと。
「えっと…美鷺さんが…接客だったよね?まずはそれから教えようか」
「は、はい!お願いします!」
緊張しすぎだろ…
「お、おい柚木、そんなにきんちょ…」
「あー、そんなに緊張しないで?別に取って食おうとしてるわけじゃないからさ」
四条さんは柚木に苦笑いになりながらそう言った。お?もしかしてこの人いい人なのか?
「あ、は、はい。ありがとうございます」
柚木もそう思ったのかさっきよりかは緊張が取れたような表情をしていた。
「うん、じゃあ接客だけど…」
そこから柚木は四条さんに丁寧に接客を教えて貰っていた。最初は緊張していた柚木も次第に教わることに真剣になっていた。
「これで接客の説明は一通り終わったかな…後は比島君。君は確か皿洗いと調理だったね?」
「あ、そうです」
「よし、じゃあ行こうか。美鷺さんは今教えたことを意識しながら接客してみてね。何か困ったら何時でも私を呼んでいいから」
俺に仕事を教えてくれる前に四条さんは柚木に優しくそう言った。
「は、はい!ありがとうございます!」
柚木はすっかり四条さんに尊敬の目を向けていた。単純なヤツ…まぁそこが柚木のいい所でもあるんだけど…
俺たちは厨房の奥に移動した。
「んー、じゃあまず皿洗ってみてくれる?それを見て説明した方が早そうだから」
「分かりました」
俺は言われた通り皿を1枚洗った。そして1枚洗い終わったらすぐさま2枚目を洗い出し…あ、1枚で良かったんだ。
「あ、す、すいません。1枚で良かったのに…」
「え、早」
ん?
「え、洗うのめっちゃ早いじゃん!しかもちゃんと綺麗だし…もう私何も教えることないよ?」
「そ、そうなんですか?」
四条さんは本当に凄いといった表情で俺のことを見ていた。な、なんか気分いいな…
「皿洗いの実力はわかった。もう私の教えることは何も無い。じゃあ次は調理しに行ってみようか」
「わかりました」
そう言われて俺たちは皿洗い場の近くにあった調理スペースに向かった。
「じゃあポテトでも揚げてもらおうかな」
そう言われた俺は直ぐに作業に取り掛かった。
「あ、まだ何も説明してない…」
「あ、す、すいません」
何をやってるんだ俺は…人の話を聞かないとダメだろ?これじゃあの姉妹と同じじゃないか…
「…出来てんじゃん」
「え?」
「私が教えることは何も無かったんだね…」
四条さんが少ししょんぼりしながらそう言ってきた。な、なんかこの人可愛いな…もちろん恋愛感情のこもった可愛いじゃない。客観的に見て可愛いと言うだけだ。
「す、すいません」
俺はもう一度謝っておいた。
「別にいいもん…仕事ができることはいい事だし?別に私ができる先輩だってことを見せて慕われたかったわけじゃないし?」
「…ぷっ」
俺は思わず吹き出してしまった。
「あ、わ、笑ったでしょ?」
「すいません。でも先輩が思ったよりも話しやすそうな人で安心しただけです」
俺は笑いを堪えながらそう言った。なんだ。何とかなりそうじゃん。
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