第10話 夜の闇
姉姫の笑いが収まらないあいだに
「で」
と姫は強く
「その
「父上と母上、それぞれのおじいさん、ってことだね」
姉姫は笑っていて聞いていないのかと思ったら、聞いていたらしい。
「父上の父君が
その名は知っていた。
「その父君が
などということを言うので、姫も
「じゃあ、姉上は好きなのですか?」
と訊き返す。
「嫌いに決まってるじゃない」
それはそうだろう。
父の父を殺した人なのだから。
「ま、それは後にして、さ」
後にして、ということは、後で話すつもりだろうか。
まあ、いい。
姉姫が忘れても、また妹姫も忘れたとしても、
それが御言持ちの仕事だ。
「幼武大王の父君が
「それで、鷦鷯はそんな名まえなのですか」
姫が感心すると、
「そうかも知れないけど」
と姉姫はおもしろそうにつけ加えた。
「あなたもわたしも、だからね。名まえは受け継いでないけど」
それはそうだ。
父も母も鷦鷯と同じなのだから。
話を変えることにする。
「それにしても、姉上はどうしてそんなことを知っておられるのですか?」
父大王はもっと話してくれない。幼武大王を悪く言うと
「それでもその大王が姫のおじいさまにあたられるのだ。悪く言うでない」
と言うだけだった。
つまり、もっと何も話してくれなかった。
それなのに、どうして姉姫は知っているのだろう?
「
この「石上の宮」というのは、
姉姫はふっと短く息をつく。
「
言うと、姉姫は、じっ、と姫の顔を見た。
何?
「それはあなたもだからね」
はいっ?
「あなたも、父の大王の嫁がせたいだれかのところに行かされるんだから」
「はい……」
間の抜けた答えだ。それしかできない。
いつかは嫁ぐのだろう。それもそんな遠くないうちに。
それはわかっていた。
嫁ぐということは、だれかに
だれかと歌を交わしことばを交わして結ばれるのか、だれかが姫の身を奪いに来て妻にされるか、父に言われた人に娶られるのか、どこかの宮に巫女として入れられるのか。
どれにしても、相手がだれか、なんて、考えたことがなかった。
けっきょく、あのあと、姉姫とは
やっぱり好んで話したい話ではなかったのだ。姫にとっても、おそらく姉姫にとっても。
そのかわり、その夜、
宮の同じ間で床を並べ、床についた梅が、深い暗がりのなかで、はっきりと言った。
「わたしは、姫が
と。
それは、ほんとうに御言持ちの梅のことばだったのか。
あるいは、もう眠ってしまった御言持ちをとおして、姫の神様が語ってくれたのかも知れない。
夜の闇は深く、姫の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます