第13話 夏の日に鷦鷯と(3)
難しいことを並べて、
「
軽く閉じた口の端に、姉はそんなことは知るまい、という思いが表れている。
知らない。
知らないものは、しかたがない。
姫は言い返す。
「そういう国の名だから、じゃないの?」
「
そこまではわかるのだが。
それより遠い
百済よりさらに遠いという
鷦鷯は、ふっ、と息を漏らして、
「漢の国では、人と人とのあいだに正しい
「ふうん」
姫も弟を見下した声を立ててやる。
文人たちに
言い返す。
「でも、
だから、漢の文というのは、つまりは呉の文だ。そうだすると、漢の国は、呉の国だということになる。
「その呉というのは、なぜ呉っていうの?」
「知らないよ、そんなこと」
鷦鷯が怒る。
そんなので怒るなよ、と思うが。
姫が怒らせるつもりで言ったのも確かだ。
これは、「日の
少なくとも、そう言っておけば姉を黙らせることはできただろう。
「
鷦鷯はまた見下した顔つきで姉を見上げる。
「そして、女は男よりも卑い、というのが礼の定めるところです。それを覆したのがその
何それ?
女が天下の乱れのもとだと?
しかし、と、姫は思い出す。
誉田別命も大鷦鷯命も男だが、神様の御言を蔑した足仲彦命も男で、韓の国を討って
でも。
そんな話は、
だから、違うことを言ってみる。
「そうは言っても、男だって女から生まれるんだよ。だから女だって尊いよ」
遠い漢の国の話をすることもいらない。
姫の母は、姫の父と同じくらいに尊いという顔をしている。
しかし鷦鷯はそうは思わないらしい。
吐き捨てるように言う。
「その女の腹の中で、子というのがどう育っているのか、見てみたいものだ」
姫はそのときの勢いで言ってしまった。
「見てみれば?」
言って、ふと気づく。
いま、鷦鷯の間の戸も窓もすべて開け放ってある。
それに、姉姫とそれぞれの
いまの話は
それを思うと、ここで鷦鷯との話を続けたくはなかった。
それに、暑い。
姫の宮よりも風が通るはずなのに、暑い。
姫は帰ることにした。
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