手白香姫の冒険
清瀬 六朗
第1話 明日香の思い出
宮の窓に寄りかかって、姫は外を見ている。
ここは、つまらない。
この
窓から外を見ても木立ちのほかには何も見えない。
二年前まで、姫は
そこが
八釣宮には庭があり、その庭に池があった。姫は細かいことは知らないが、たぶん、池が先にあって、そのまわりに宮を造ったのだろう。
姫の父は
億計王と
弘計大王は庭の池を囲んでよく
弘計大王は歌が好きだった。そこで、大きな
そうすると、大王の宮でしか飲めない旨い酒飲みたさにわざと歌を作らずに待つ官人が必ずいた。
まだ小さかった姫は、焼いた
旨い酒が飲めると大盃を傾け、思ってもみなかった苦さに酒を吹いてしまう官人もあった。しかし平気で飲み干す者もいた。
「あれは、酔っ払ってもう酒の味もわからなくなっているのだ」
と大王は教えてくれた。そして、わざと怖い顔を作って
「酒というのはそういう怖い飲み物なのだぞ」
と言い、大声で笑った。
姫にとってはいい叔父さんだった。世の人にとってもいい大王だっただろう。怒った顔など見せることのない人だった。
たった一つのことを除いて、だけど。
しかし、姫のいたずらは、かわりに父の億計王に怒られた。
だいたい大人たちの宴に子どもが行くものではない。少しは弟の
見倣いなさいって……。
弟を?
姉が?
いつも部屋にこもって、
見倣うことはとてもできそうにない。見倣いたいとも思わない。
父は、どうやら、弟の弘計大王がしきりに宴を開くのが嫌いだったらしい。
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