第31話 月夜(4)
姫がもとのように身を
「姫からそのことを
いっそう小さく、そして強い声だ。
「いまは、お母上は、死ぬがよいとはおっしゃっても、姫をお殺しになることはありますまい。でも、姫が、大王にそれをお知らせすれば、姫の命も
「いや、それでも」
いったい、どういう罪で、姫を殺すというのだろう?
「何とでも言えます」
梅は声を落ち着けたまま、言う。
「
と、ことばを切り、さらに声を小さくして、続ける。
「幼武大王は葛城大臣の姫を奪われ、
「ああ」
姫も大きな声を立てないよう、声を
「つまり、眉輪王は幼武大王の前の大王を殺してもいないし、葛城大臣の
「そうは申していませんが」
と梅が言う。
そして、ささやく。
「そうでないとも言えません」
梅がこの話をしたのは、幼武大王の娘である姫の母も、同じようなことをするかも知れない、と言いたいからだろう。
しかも、姫が望んだわけではないが、姫は、白髪大王の
幼武大王に父を焼き殺された葛城の姫の子が白髪大王で、その名を継いでいるのが、
「お父上の
つまり幼武大王のやり方を続けることもできない。
「
父
「
「うん」
そのまま
または。
大和の国が幼武大王のような大王を求めていたとしたら、よい大王になったかも知れぬ。人として
しかし。
大人になればあるいはできるようになるかも知れない。しかし、母に
できるようには、なりそうもない。
梅が言う。
「父君の
姫も答えた。
「わたしも、わたしが生きているあいだは、世が乱れるなんてことはあってほしくない」
そして、梅を向いて、笑って見せる。
「もちろん、梅が生きているあいだにも、ね」
「ありがとうございます」
梅がくすぐったい言いかたで答える。
父も、
姫を憎んでいる母でさえ。
しかし、そうはいかなかった。
このとき、その世の乱れというものは、姫のすぐ
手白香姫の冒険 清瀬 六朗 @r_kiyose
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