第5話 民の竈(2)
「よいところに気がついた」
姉の
娘たちのそんなそぶりには気づかないまま、父大王は続ける。
「
「いや」
姫がいきなりことばをはさんだ。
「貧しい民は麦を食えばよいのでは?」
父より先に母が姫を振り向いてにらみつけた。横で姉がくすんと笑うと、母はその姉をもにらみつける。
「食う麦も、
父大王は早口でつけ加える。
「そうならないように民を治めるのが
いや。
作るのに手間のかかる米や麦はともかく、稗なんか勝手に生えてくるわけで、それは
でも、けなげな弟はそうは考えないらしい。
「はい」
鷦鷯が幼い声で答えて、父大王の顔を
父は満足そうにうなずいた。
「そのために、わが家の
姫がまたすばやく訊く。
「高祖って、父上の? 母上の?」
「やめなさい」
母が声を出して
「大王がお話になっているところです」
姫は恐れ入ったように小さくうなずいて見せた。姉はどちらも耳に入らなかったという澄まし顔でいるが、口もとが笑っている。
「どちらもだ」
その大王である父はいら立たしげに答えた。
「この父の父の血筋も、その」
とことばを切ってから、続ける。
「
幼武大王は、母の
そして、父や叔父様の父君、
父はその幼武大王の名を口にするのをためらった。それが姫にははっきりとわかった。
母がその父のほうを鋭く振り向いたことも。
父大王がどうしているか、いまはその母にさえぎられて、姫からは見えない。
父はしばらく黙ったままだ。
やがていかめしい声を作って言う。
「その高祖の命はそれで民に
父はここでひとつ息をついて、間を取る。
「
鷦鷯はわずかのあいだだけ眉をひそめた。でも、すぐにけなげに
「はい」
と答えた。
それが言いたいために、父大王は子たちをここに連れてきたのか。
姉の財姫が、姫を見て、くすん、と笑って見せた。
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