第17話 大王とその娘(3)
母が言いつのる。
「そうです。
「止めぬか!」
大声が
雷かと思うほどの恐ろしい声だった。この身を切るような母の鋭い声には少しも心を動かされなかった姫が縮み上がった。
「おまえにとっては
父
後ろに控えているのは
母に下がっているように言われた幸が大王を呼びに行ったのだろう。梅が来たのはたまたまか、それとも幸が梅も呼んでくれたのか。
「そのようなことを言って」
そういう母は、声が震えていた。
声が震えるのは、体が震えているからだ。
「この小娘が、
「小娘」って?
たしかに、
「だから」
と父大王は母のことばを止めた。
「姫には私からよく言い聞かせておく。それに、仮にも姫はおまえが産んだ子ではないか。御身の父君を
その「下がっていなさい」のことばに、母は目をむいた。
「こっ、……ここは大宮ですよ。
「ここは
父が落ち着いた声で言う。母は息をのんだ。
泊瀬というのは、あの
母はそこで育ったのだろう。
泊瀬ならば、その幼武大王の娘である
母はいっそう打ち震えた。けれども父大王は取り合わない。
「ここは
つまり、母の大后ではなく、父大王が。
「私が姫に言って聞かすあいだだけ下がっていてくれと言っているだけだ。下がっていなさい」
「さあ」
父大王のことばに答えるように、
鋭い声だった。
あやまたず母だけを刺す。そんな鋭さがその声にある。
母は憎々しげに姫をにらみつけ、またまぶたを震えさせる。
でも、父に言われ、幸に
母はもう姫を振り返ることもせず、幸に従って出て行った。
梅は残る。
梅は顔をうつむかせて、上目で姫を見ている。
「梅も下がりなさい」
父大王が柔らかい声で言う。
「いいえ」
答えたのは姫だった。
「梅はわたしの
もしそれでも強いて梅を下がらせるというなら、姫も帰るつもりだ。
しかし、父は、さっきよりもさらに柔らかい声で言った。
「そうか。ならば共に残るがよい」
梅がふっと息をついた。
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