SS-4 ♂ 〝女の子ふたり〟で週末デート♡【後編】 ♀

「なあ、ほんとに並ぶのか?」

 

 愛音と映画を見終わったあと。

 俺たちはパフェが人気というスイーツ店に並んでいた。


「うんっ、ずっと行ってみたかったの! 新しくオープンしたお店でSNSでも話題になってるんだよー」

「話題っつっても……【女子】の中で、だろ」

 

 もちろん、と愛音が笑顔でうなずく。


「あれ? またみーくん、つまらなさそうな顔してるー」

「うー……俺はそもそも、なんだよ。わざわざ専門店まで来なくても、コンビニの100円アイスとかで充分だろ」

「あれはあれで美味しいけど、一度お店の本格的なのも食べてみたら? 今のみーくんは女の子なんだしさ。ほら、さっきの映画みたいにハマっちゃうかも」

「……っ! あ、あれはべつに、ハマってなんかないっ」

「登場人物の中でだれがだった?」

「いやー迷うなやっぱり最初は主人公に敵対してた派閥のリーダー格の奴かな。イケメンなのをわざとらしく鼻にかけて何かにつけて主人公につっかかってくるんだが、実は小さい頃に一度主人公に会ったことがあってそれを伏線にラストシーンで主人公への想いを吐露するシーンなんかは涙なしじゃ見られない最高のカタルシスが……はっ⁉」

 

 などと思い切り早口でまくしたてていたら、愛音がにやにやしていることに気がついた。


「ふふ。やっぱりハマっちゃってるじゃん」

「ち、ちがっ! ……うー」

 

 俺は頬を膨らませて語気を強める。


「とにかくっ! さっきはだっただけで! 俺はスイーツなんて別に、並んでまで食べたくはないんだっ――」



 

     ♡ ♡ ♡


 


「ううううー……! 並んで良かったあああぁぁぁ……‼」


 俺は名物というミックス苺パフェを口に運びながら号泣していた。


「だれだよ、コンビニの100円スイーツで充分って言ってたやつは……! 確かにあれはあれで魅力的だが、このパフェはもはやスイーツという枠を飛び越え、人類が感じうる〝幸福の最高峰〟として完成されている……!」


 そのあとも芸術的な見た目や、今までに食べてきた生クリームとの違いにソース、果物の質などを絶賛しまくっていたら――


「ふふ」

「な、なんだよ、愛音」

「ううん。やっぱり今のみーくん、なあって思って」

「んななななっ⁉」


 俺は思いっきり動揺しながら再度否定してやる。


「そそそそそんなわけないっ! 確かにこのスイーツの旨さは認める! だがそれは、さっきまで映画を見て感情がり動かされ脳が疲れてたから染み渡っただけで、俺が甘味に踊らされるなんてことは――」

「あ、私のやつも食べるー?」

「食べるっ‼」


 俺は愛音のチョコレートパフェを目をきらめかせながらいただいた。


「はい、みーくん――あーん」

「ん……! おー……! こっちもめちゃくちゃうまいな……!」


 俺はほっぺたに手を添えながら言う。


「どう? みーくん」

「ああ、すごくだ――はっ⁉ ち、ちがう。これは、その……っ!」


 目をぐるぐると回していると、愛音が仕方なさそうに息を吐いて言った。


「ねえ、みーくん。自分のこと、そんなに否定しなくていいんだよ?」

「……え?」

「たしかにみーくんはみーくんで。ココロは男の子のままかもしれないけど、今のカラダは〝女の子〟なんだからっ」

「で、でも……」


 愛音は首をゆっくりと振ってつづける。

 

「女の子向けの映画で泣くほど感動しちゃっても。昔は苦手だった甘いものスイーツが大好きになってても――べつにいいんだよ? ほら、どうせいつかは男の子に戻るんだったらさ。今のみーくんの感情は、この瞬間だけなんだから」

「愛音……うー。そ、そうだな。男に戻ったら、スイーツ食べてこんなに〝シアワセ〟って感じることもないかもしれないし……、だもんなっ」


 自分を納得させるように唇を噛んで続ける。

 どうせ今だけだったら――

 

「だ、だったら……その……」

「うん? どうしたの?」

「べ……べつのメニューも、頼んでいいか?」


 と俺はメニュー表にちらちらと横目をやりながら言った。


 愛音はすこしきょとんと目を丸くしたあと、穏やかにうなずく。


「もちろんだよっ。みーくんの好きなの頼んじゃって」

「ほんとかっ? へへ――良かった、さっき頼もうか迷ってたのがあったんだ……!」


 うきうきとメニュー表を眺めながら、俺は口元を手の甲で拭う。

 

「あ、愛音も食べたいのあるか? どうせだったらふたりで……うん? どうした?」

「ううん」と愛音は机の上についた手に顎をのせながら、「私、どっちのみーくんも――だよっ」

「な、なんだよ、急に」

「えへ。言いたくなっただけ」


 愛音は変わらず天使みたいな微笑みを浮かべて言った。


「あ、でもみーくん。ひとつだけ女の子の先輩として忠告しておくと……あんまり調子に乗って食べ過ぎると、太っちゃうからね?」

「……あ」


 俺ははっと目を見開き。

 目の前できらきらと輝く魅力的なスイーツたちと、自分のお腹とを比べて。


「うー……!」

 

 悩んだ末に、言った。



「よ、夜ご飯を、代わりに抜くことにするっ……!」


 

 ――こうして俺は、スイーツの魔力に完膚なきまでに打ち負けた。




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スイーツに理解わからせられたみなたでした――!

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