3-3 ♂ 真夏のクリスマス ♀
「みーくんっ! おめでとー!」
「ん――おめでと」
次の日。玄関をあけると。
クラッカーとともに
「……………………へ?」
俺は目をぱちくりとまたたかせる。
状況の理解が追いつかない。
ぼうっと突っ立っている俺を押し込むように、ふたりは部屋の中へと入ってきた。
「へ? ……へ?」
「みなたはすわってて。かざり、つける」と龍斗。
「キッチン借りるねー」と愛音。
ふたりは両手に抱えていた大きな袋から色々と取り出して
「ちょ、ちょっと待て! どういうこと、だ……?」
「うん? どういうことって」
愛音と龍斗が顔を合わせる。
すこししたあと、愛音は口元に指先をあておかしそうに微笑んだ。
「あは。もしかして、本当に気づいてない? みーくん、今日
「……あ」
このカラダになってから日常が慌ただしくなり、すっかり忘れていたが――そういえば確かに。
今日は、俺の誕生日だった。
「だから、ね?」
愛音は自前の白いエプロンをつけて、くるりと天使みたいに回って言った。
「みーくんの〝バースデーサプライズパーティ〟だよっ」
「なあっ、えええええ……⁉」
俺はあらためて困惑の叫びをあげた。
♡ ♡ ♡
「うっ、……うまい……‼」
愛音の手料理を食べながら思わず感嘆の声が出た。
「ん――おいしい」と龍斗も目をきらめかせている。
以前の弁当の時にも十分察していたが、愛音のつくる料理は
サーモンとチーズのフリット。生ハムやおしゃれな野菜のサラダ、ピンクペッパーが散らされた白身魚と
うちの小さなキッチンでどうのようにこさえたのかさっぱり分からない、随分と豪勢なパーティ料理だった。
「えへ――練習した甲斐があったよー」
愛音は口元をお盆で隠しながら笑んだ。
彼女は徹底的な〝努力家〟だ。できないことがあれば、できるようになるまで懸命に練習をする。それが彼女を
そんな愛音が言うのであれば、きっと言葉に嘘偽りなく、相当に練習を積み重ねてきたのだろう。それも、ぜんぶ――
「今日のために、か……」
誕生日パーティのために。俺のために。
そこまでの労力をかけてくれた――その事実がたまらなく嬉しくて。
同時になんだかいたたまれない気分にも、なった。
昨日の誘いは〝サプライズのお祝いのため〟だったのに、それを【3人の関係が崩れてしまうかもしれない】などと無駄に勘ぐって杞憂して――
「俺が、ばかだったな……」
愛音だけじゃない。龍斗だってきっとそうだ。
今はノンアルコールのスパークリングワインを片手に、愛音の料理を淡々と口にほおばっているが、今日のためにきっと色々なことをしてくれたのだろう。
たとえば用意してくれた飾り付け。
壁には様々なデコレーションと一緒に『メリークリスマス☆』と
「……って! 色々おかしいだろ!」
と俺はようやく突っ込んだ。
「ん――どうして?」と龍斗。
「真夏なのに、なんで飾りがクリスマスパーティ仕様なんだよ!」
「赤道の南側じゃ、クリスマスの時期は真夏になる」
「だとしても! クリスマスを祝うのは12月で変わらないだろうが!」
「ん――気持ちが先走った」
と龍斗は自らの側頭部をこてんと叩く。
「あともうひとつ気になってたんだが……なんなんだよ、そのタスキは!」
「え?」
龍斗は開始からずっと、『本日の主役!』とかかれたパーティグッズの
「せめて俺の誕生日会なら、俺が主役じゃないのかよ……!」
「――そんなに、これ、かけたかった?」
「違う! 羨ましくて言ったんじゃない!」
そんなダサイものは頼まれてもつけたくない。
「そこまで言うんなら、仕方ない。泣く泣くあげる」
「いらないし、そんなことで泣くな!」
「この鼻眼鏡もあげる」
「もっといらない! つうかこんなのも買ったのか⁉」
横を見ると一連を見ていた愛音が『あはははは、おかしー』とお腹を抱えて笑っている。
「……ったく、龍斗は相変わらずだな」
当然こいつのことだ。冗談でわざとに決まっているのだが。
(もしかしたら昨日のことがあって、特に俺を笑わせようとしてくれたのかもな)
なんてことを、ふと思った。
表情にはあまり出さない龍斗のことだ。
真実は分からないが、なんでもすまし顔でこなしつつも、妙なところで不器用な彼なりの気遣いだった可能性もある。
いずれにせよ。
愛音にしたって、龍斗にしたって。
こうして俺の誕生日にかけつけてくれて。
お祝いをしてくれただけでも――充分に俺にとっては嬉しい。
「ふふ。じゃあ、そろそろ」
愛音がそわそわと横に揺れながら言った。
「ん、そだね」と龍斗が相槌を打つ。
「みーくん、目つぶってて?」
「え? ……あ、ああ」
俺は下を向いて目を閉じる。
がさがさと物音が聞こえてくる。
「おっけー、あけていいよ?」
愛音の合図とともに目を開いた。
そこには。
「……あ」
赤いリボンで可愛らしくラッピングされた〝小さな箱〟があった。
「ふふ。真夏のクリスマスプレゼントだよー」
と愛音が
「く、くれるのか?」
「もちろん」と龍斗が言った。
「ねえ、あけてみて」
俺は手をお盆の形にして箱を受け取る。
緊張で震える手で開けていくと、中には――
「あ……ピアス」
シルバー素材の、月の形をしたピアスがあった。
中心に宝石が埋め込まれていて、きらきらと輝いている。
「――かわいい」
と俺は息をつくように言った。
「すっごく迷ったんだけどね?」と愛音が補足する。「せっかく、みーくん女の子のカラダなんだし、こういうプレゼントができるのも今だけかなって思って。あ、ピアスにしよーって言ったのは私なんだけど、デザインを選んだのはりゅーとなんだよ?」
「え……龍斗が?」
龍斗に視線を向けると、彼はどことなくばつが悪そうに視線を斜めにずらした。
「そ。
そこで俺はハッとして、
「つうことは、もしかして……先週、お前らが予定があるって言ったのは」
「あ、やっぱりばれてた?」と愛音がぺろりと舌を出した。「りゅーとと一緒に、みーくんのお誕生日プレゼントを買いに行ってたんだよー」
「ごめん、きのうは、うそついていた」と龍斗が申し訳なさそうに続けた。「ミナタを、よろこばせたくて」
ごめんねー、と愛音が胸の前で掌を合わせた。
「お、お前ら……」
「と、いうわけでっ――」
愛音が仕切り直すように言う。
「色々驚かしちゃったけど、あらためて。お誕生日おめでとう、みーくんっ」
そこまで聞いて。
「……う、あ」
俺はぽろぽろと――涙を流しはじめた。
「ええっ? みーくん⁉」
「うっ……、うああああっ……!」
溢れだした涙は止まらない。
フリルがついた胸元の
「ごめん、俺、……
俺は鼻をすすりあげながら続ける。
「お前らのこと……本当はすこし、うたがってたんだ。俺に隠して、ふたりで出かけて――なにかあるんじゃないかって。ネガティブなことばっかり考えてた。実際は、
「……みーくん」
「俺、俺――うああああああっ……‼」
自分への情けなさだけじゃない。
こんなカラダに変わってしまった今でも。
親友たちに変わらず大事に思われている喜びも相まって。
――俺の甘ったるい泣き声は、部屋中に響き渡った。
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愛されてるみなたくんちゃんでした!
これにて円満に一件落着! なわけがなく……?
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