番外編:女の子に変わってしまった【みなた君ちゃん】の日常

SS-1 ♂ ひとりでおふろ、はいれるかなっ? ♀

 ※こちらは本編で描かれなかった番外編(Short Story)になります!

 ※みなたたちの日常的な部分がメインなので、気軽にお楽しみくださるとうれしいです……!  


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 淫魔の首飾りとかいうオカルトのせいで。

 俺のカラダが【黒髪美少女】へと変わってしまったの夜。

 

「うー……どうしたって、避けられない、か」

 

 俺は部屋の中を右往左往うおうさおうしながら悩みの声をあげていた。

 

 差し迫った問題はただひとつ。

 

 ――ハジメテの、

 

 昨日は愛音が〝女の子講座〟のために泊まりにきてくれて。

 お風呂はどうにか目隠し(+泡風呂)で誤魔化すことができていたけれど。

 

「ひとりだと、目隠しするわけにもいかないしな……」

 

 どうしたものか、と引き続き嘆息たんそくする。

 

「そうだ! いっそのこと、入るのやめるか! ――って、それはさすがに、だめだよな」

 

 ただでさえ愛音からは、毎日のケア(髪の毛や肌とか、とにかくだ)を入念にするように強く言われたのだ。

 初手から『お風呂ごとサボっちゃた☆』なんて報告したら、怒られるどころじゃすまない気がする。

 

 

「うー……! これ以上うだうだしてても仕方ない、やってやる……!」

 

 

 こうして俺の【ひとりでおふろ、できるかな?】大作戦は始まった。


 

     ♡ ♡ ♡


 

「ま、まずは服を脱ぐところからだな」

 

 脱衣所の洗面台に向かって俺は喉を鳴らした。

 今の俺はフリルのついたえり付きの白いシャツに、黒とピンクのスカートという恰好だ。


「うー……なんとなく、のが、へんな感じだな」

 

 昨日の淫魔化とかいうオカルトのせいで、カラダだけじゃなくココロの方もすこし【女の子】に近づいてしまった。

 おかげでメイクや女物の着替えといった『男の時には絶対に体験しなかったようなこと』でも、身体が自然と動いて。

 ある程度はこなすことができていたが……。


「それでも俺が〝男〟だったことに変わりはない。どうしたって……緊張は、するさ」

 

 ふううう、と息を吐いてから、さっそく作業にとりかかった。


「……」

 

 胸元のリボンを解いて外す。スカートのジップをおろしてゆるめる。

 

「…………」

 

 中からシャツのすそを出す。前のボタンを外して脱ぐ。

 スカートをおろす。


「………………」

 

 すこしためらってから、薄手のつやつやとした生地のキャミソールもめくりあげるようにして脱ぐ。


「うー……」


 俺はいよいよ下着姿になった。

 純白の肌に映える、薄ピンクのブラジャーとパンツだ。

 リボンやがふんだんにあしらわれていて、とても可愛らしい。


「――はっ!」

 

 思わず見惚れてしまっていた。

 鏡の中の俺の顔は、すでに真っ赤になっている。


「じ、自分の恰好に見惚れて、どうするっ」

 

 続いて手を背中に回した。

 ブラのホックを外す。同時に解放感があった。


「……っ! やっぱり、おおきい、よな」

 

 愛音よりも小柄なカラダには。

 愛音よりもであろう膨らみがついている。


「……おー」

 

 両手で持ち上げてみる。ずっしりと重みを感じる。

 熱い。そしてなにより。


「や、やわら……かい」

 

 やわらかかった。


「って、こんなことしてる場合じゃないっ」


 俺は意を決して次の行動にそなえた。

 はこのあとに待ち受けている。


「や、やっぱり、トイレのときとは、ちがうよな……」

 

 なにしろ今の俺は、ほとんど〝生まれたままの姿〟に近いのだ。

 

 その最後の砦。

 レースがあしらわれた、どこまでも可愛らしいつやのあるパンツを――


 おろした。


「……う、あ」


 こうして俺は文字通り、一糸まとわぬ姿になった。

 

 妙な解放感とともに、ひどく心もとない気持ちになる。


「まるで、自分のカラダじゃないみたいだ……あ、いやっ! そもそもが自分のカラダじゃないんだから当たり前なんだが。でも……今はどうしようもなく、自分のカラダで……うー……」

 

 頭の中がぐるぐると落ち着かない。

 顔の火照りは全身へと伝播でんぱして、雪のように白い肌を上気じょうきさせていった。


 

「と、とにかくっ! 服は脱いだんだ、あとは〝いくところ〟までいってやる……!」

 

 

 俺はひとまず第一関門を突破クリアした。

 


     ♡ ♡ ♡


 

「ふう――やっぱり、湯舟は気持ちいいんだよな」

 

 俺は浴槽に足をのばしながら言った。


「なんだか男のときよりも、リラックスできる気がする」

 

 入浴剤のフローラルな香りを含んだ湯気を鼻から吸う。

 きっと男のときなら甘ったるく感じただろうが、今は不思議と癒される心地がした。


「はじめてのひとりでの入浴……終わっちまえば、なんてことなかったな」

 

 俺は強がるように言った。

 実際はなんてことは

 

 自分で自分のカラダ――〝女の触感〟を直に感じながら洗体するのはとてつもなくしたし。

 髪の毛を洗うのにも、ブラッシングから丁寧な洗髪、トリートメント云々まで――毛量が多いこともあって、男の時のくらい時間がかかった。(あくまで俺の体感だ)

 

「……はあ。俺、これからこんなことを毎日やるのか」

 

 もちろんこれで終わりではない。

 風呂から上がれば、引き続き『男からしてみれば体感時間百倍』の各種のケアが待っている。


「女って、いろいろ大変なんだな」


 ――えへ。慣れれば楽しくなるよー。

 

 などと愛音は言っていた。だけど。


「うー……あんまりってのも、避けたいんだよな」


 今いちばん恐れていることは、いつの間にか女であることを受け入れて。

 自分が女であることに違和感を抱かなくなって。

 

 自然と【心や感情】が、このカラダの――


 つまりは〝女〟のものに染まってしまうことだ。


 

「うー……! 絶対、そんなことになってたまるかっ!」


 

 俺はふくよかな胸をぷるるんと揺らしながら。

 

 そんなことをあらためて決意した。




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ならないそうです!(にっこり)


次回からも引き続きサイドストーリーになります――

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