SS-3 ♂ 〝女の子ふたり〟で週末デート♡【前編】 ♀

「あ、みーくんっ! 遅くなってごめんねっ」

 

 駅前の広場に愛音がやってきた。

 今日はふたりで映画を見に行く約束をしている。


「いや……べつに。俺も今きたとこだし」

 

 と俺は澄ました顔で返す。

 

 余裕のある〝彼氏カレシ〟っぽく言ってみたつもりだったが――

 あいにく、今の俺のカラダはどこまでも〝美少女〟のものだった。

 

「……みーくん」

「な、なんだよ」


 愛音がじいっと俺の全身を眺めてきた。


「えへ――今日もねー」

「っ! うー……あんまり、そういうこと、言わないでくれ……」

 

 顔が熱を持っていくのを感じながら俺は続ける。

 

しか、家にないんだ……」

 

 ふわふわとフリルがあしらわれた淡いピンク色のブラウス。胸元には大きなリボンを結んで。

 花格子柄の白黒のサスペンダースカートは、中に履いたパニエのお陰でふわりと膨らんでいる。

 ハートのスタッズが可愛さを引き立てる革製のミニリュック。デコレーション付きのクルーソックスに底の厚いローファー。


 いわゆるSNSじゃ『地雷系』だかなんだかと話題になっていそうな恰好だ。


 メイクと髪型も服装に合わせて(俺の中の【女としての記憶】が勝手に)アレンジしている。


「ふふ、すっごく似合ってるよー」と愛音はもちろん気づいて言う。「メイクも髪型も、自分でしたんだよね? すごいよ、みーくん。もうすっかりだねー」

「う、うるさいっ……そんなわけ、ないだろ……これは、俺のカラダが、勝手に……うー……あんまり、見るなあっ……!」

 

 俺は身体の前で手を振りながら、仕切り直すように言う。

 

「ほ、ほら! 映画見に行くんだろ、とっとと行くぞっ」

「えー。もっとみーくんのこと見てたかったのにー」


 愛音は悪戯いたずらに頬を膨らませつつも、俺の後ろをついて歩き出した。


 そして途中で、俺の手を――きゅうと。


「……っ!」

 

 握ってきた。


「な、なにしてるんだよっ」

「なにって――手をつないだだけだよ?」

「つないだだけって……!」

「女の子どうしだったら、これくらいふつうだもん。それに――」


 振りほどこうとすると、愛音はそれを阻止するようにさらに手をからませてきた。

 

「私たち、こうみえても――でしょう?」

 

 俺はなんにも言えなくなってしまい、愛音のなすがままに手を預けた。


「うー……」

 

 てのひらからはが伝わってくる。


 歩いているうちに、汗が滲んできた。それが自分のものなのか、愛音のものなのかは分からない。いわゆる〝恋人繋ぎ〟になった手の中で、ふたりの体液が交わっていく。心臓の音が高鳴っていく。


「…………」

 

 なんだか恥ずかしくなって、俺は誤魔化すように会話を続けた。


「あ、そ、そうだ! 映画って、なにを見るつもりだ?」

「えっとねー、見たかったのがあるの」

 

 愛音が提案してきたのは、今流行している【恋愛映画】だった。

 

 ひとりの女子高生が手違いで〝男子だけのクラス〟に編入することになって、総勢30人以上のイケメン同級生たちが主人公を取り合うという……


 なんともツッコミどころ満載な作品だ。


「あれ? みーくん、なんだかつまんなさそうな顔してない?」

「うー……すまん。正直、内容的にぜんぜんそそられなくてな」

 

 元・男の俺にとっては、滅茶苦茶な少女漫画的な設定がうけつけない。

 もっとこう、アクション! とか。ヒーロー! とか。そんなものを見たい気分ではあったのだが……。

 

「女の子の中では結構評判がいいんだよ? 涙なしじゃ見られないーって」

「そんなギャグみたいな設定でどうやって泣くんだよ!」と俺は突っ込んだ。

「もー。そんなこと言わずにさー」と愛音は微笑んで言う。「こんなこともないと、みーくんと一緒にこういう映画も見れないし。それに、見てみたら以外とハマるかもよ? 今はみーくん、女の子のカラダなんだし」

 

 俺は嘆息たんそくしながら言う。


「ったく。そんなわけあるかよ」

「どうして?」

「どうしてもなにも……俺のココロは男のままなんだ」

 

 俺は『はん』とすこし小馬鹿にするような息を吐いて、片方の口角をあげた。

 

「男子だけのクラスに編入した女子高校生の逆ハーレムもの? そんなムチャクチャ設定の恋愛映画に、感情移入なんてできるわけないだろうが」


 

 

     ♡ ♡ ♡



 

「ううううー……! めっちゃくちゃ良かったあああぁぁぁ……‼」

 

 映画を見終わったあと。

 

 俺は映画館のロビーでしていた。


「だれだよ、無茶苦茶な設定のギャグ映画なんて言ったやつ――これはもはや恋愛という哲学を描いた芸術作品だ……!」

 

 そのあとも映画に対する絶賛の言葉を並びたてつつ、思い切り主人公の女子にをしまくっていたら――


「ふふ」

「うん? な、なんだよ愛音」

「ううん。今のみーくんって……なんだかだなーって思って」

「んなっ⁉」


 俺は思い切り目を見開いて否定してやる。


「そ、そんなわけないだろ! 俺はで有名なんだっ! 流行だとかなんだとか、そんなのに簡単に踊らさせるわけないっ」


 などと言いながら。


 

 ――俺はそのあと、売店で映画のグッズをめちゃくちゃ買った。


 

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