SS-5 ♂ 俺がメイドさんっ!? 【その1】 ♀
「俺が【メイド喫茶】でバイトーっ⁉」
学校の廊下で。俺はそんな大声をあげていた。
目の前では
「人が足りないらしくてさ。働いてる他校の友達に『1日だけでいいから』って頼まれてOKしてたんだけど……その日、私どうしても外せない予定が入っちゃって。代わりにみーくん、入ってくれないっ……?」
「うー……そんなの、いいわけないだろっ」
「ほんとっ⁉ ありがと、たすかるよー」
と愛音は
「おい! 人の話を聞いてたか⁉」
と俺は突っ込んだ。
「ちゃんとバイト代も出るし。ね?」
「そういう問題じゃない! 俺はそもそも〝男〟なんだ。メイドなんてできるわけないだろ⁉」
愛音は俺の全身を見回して言う。
「でも今のみーくんだったら〝女の子〟のカラダだし? 絶対メイド服も似合うと思うんだよねー」
確かに。
今の俺は女子の制服に身をつつんだ黒髪少女だ。
「うー……だとしても、いやだったらいやだ!」
「そこをなんとかお願い! みーくん以外に……頼めるひともいないの」
愛音が目を潤ませて迫ってきた。
俺は『うっ』とたじろぐ。
――この俺が、メイド……?
確かに愛音には『せっかくの女の子のカラダだし、今しかできないことを楽しんでみたら?』と助言されたこともあるが……さすがに
断固としてお断りだ。
「駅前の限定フルーツパフェおごるからっ」
「うー……! 仕方ない、1日だけだからなっ……!」
俺はすぐに
バイト代ももらえる上に、あの〝
「よかったー、それじゃあ伝えとくねっ。……あ」
「ん……なんだよ?」
「ううん。みーくんのメイド姿――私も見たかったなあって思って」
「……っ! み、見なくていいっ!」
スイーツ目的にやむなくバイトを受け入れたのだ。
ただでさえ恥ずかしい格好を、愛音に見られてはたまらない。
「みーくん、本当にありがとっ。当日はよろしくねー」
愛音は相変わらず天使みたいな笑みを浮かべて廊下を去っていった。
「うー……ったく。妙なことを頼みやがって」
俺は
「そもそもメイド喫茶なんて、実際に行ったことないんだよな……」
ひらひらとした服。ピンク色の店内。可愛らしいBGM。独特な挨拶やキャラクター。
そんな特殊な空間の中で、自分が働いている様子を思い浮かべてみる。
思い浮かべてすぐに――
「……っ!」
ぶんぶんと首を振った。
「あ、愛音っ! すまん! やっぱり俺には荷が重すぎる! メイド服を着て接客するなんて、元・男の俺にはどうしたって無理だ――」
♡ ♡ ♡
『わー! みなたちゃん、かわいー!』
バイト当日。
俺は見事に着こなした【メイド服姿】を、他のメイドさんたちから
「うー……! に、荷が重いって、言ったのに……!」
俺は拳を震わせながら言う。
あのあと一度は断ったものの、愛音から頼みこまれ(決定打はスイーツショップのお土産マカロン追加だ)、結局こうして1日だけのヘルプに入ることになった。
『愛音ちゃんからは写真も見せてもらってたんだけど……実物はもっとかわいいし、メイドさんもすっごく似合ってて!』
愛音の友達に言われて、ちらりと鏡に目をやった。
フリルつきの衣装にエプロン。カチューシャ。
まさに写真などで見たことがあるメイドさんの恰好だ。
髪の毛もいつもより高い位置でツインテールにしている。
『うんうん! 最高のメイドさんだね~! 今回だけじゃなくて、ずっとウチで働いてほしいくらい』
「か、勘弁してっ! ……くだ、さい」と俺は顔に熱をこめながら言った。
『あはは。冗談だよ。冗談じゃないけど。ひとまず今日一日、よろしくね~』
「よ、ヨロシク、オネガイ、シマス」
俺は
『それじゃあさっそく【メイドネーム】だけど……』
彼女の胸元に目をやると、可愛らしい丸文字の手書きで【るる】と書かれていた。
どうやらメイドさんとしての名前を決める必要があるらしい。
「あ、そのまま、ミナタ、とかで」
『そういうわけにはいかないね~。もっと可愛らしい名前にしないと♪』
「え? う、あ……」
『みなたちゃん、でしょ? うーん』
先輩メイドのるるさんは腕を組んで考えはじめた。
嫌な予感しかしなかった。
『あ! 【みにゃたん】ってのはどう!?』
嫌な予感は当たった。
「っ⁉ む、むり……ですっ! もっと、ふつうの名前で……!」
『き~まりっ。はい、これネームプレートね。それじゃあよろしく~』
「よ、よろしくって! まだいろいろと、心の準備が……っ! うー……!」
こうして俺は人生初のメイド喫茶にて。
黒髪ツインテ美少女【みにゃたん】として、
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決まりました☆
次話、みにゃたんがメイドとして活躍⁉ します――!
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