第47話 プライド
「結婚……!」
かっと顔が赤くなるのを感じる。
さらりと伝えられた言葉に、現実感がないのに嬉しさがあふれてくる。
「後は金銭的に。私の研究助手だけだと貧しいという話はしていただろう。私と結婚すればその辺は解決するので気にしていなかったが、ミスリアが気にしていてな」
「ミスリア様が……」
「そうだ。貴族との結婚にはお金がかかる、と。そんなのは私の個人資産から出すから問題ないのに謎だ」
すべてをフィスラに出してもらい続けるのは気が重くなる。
身分差と金銭問題。
大きな壁だ。ミスリアが気にしてくれていたなんて優しい。
「だがそれも解決だ」
少し微妙な顔をして、フィスラがこめかみを押さえた。
「嬉しそうじゃないですね」
「そうだな。君が作ったポーション、そしてこれから君が作るポーションを換算すると、私の個人資産を上回る」
「ええええええ」
「資産については問題ないと思っていたし、気にする必要はないと思っていたが……こうなってくると気になるものだ」
「ええと……」
少し遠くを見つめるフィスラになんと声をかけていいかわからない。
日本よりもずっと男性が女性を守る意識の強いこの世界で、個人資産が上回る女性。
他の人ならともかく、フィスラには想像したこともなかったはずだ。
言葉を探して視線を泳がせていると、妙案を思いついた。
「私からフィスラ様に求婚すれば問題ないのでは?」
「ツムギ……」
「お金があるほうに嫁げば問題解決です!」
弾んだ声で伝えると、フィスラは虚を突かれた顔をした後、大笑いした。
「流石だツムギ。君のそういうところが好きだ」
「そうでしょう。いい案ですよね」
「でも、プロポーズは私からさせてほしい。頼む」
まだ笑いが収まらないフィスラは、笑いすぎて浮かんだ涙をぬぐいながら伝える。
プロポーズをされること自体は、私ももちろん、嬉しい。
案は受け入れられなかったけれど、フィスラの気持ちははれたようだし私は大人しく頷いた。
「わかりました。お待ちしております」
「早く君に近づけるように、ポーション液を作ってくるよ」
「駄目です! 先に寝てください。……私は、いつまでも待てるので。フィスラ様が倒れたら結婚も出来ないですし」
「……わかった。いったん休憩する。そして、君が普通の生活ができる程度までは、健康を害さない程度にポーション液の作成に尽力することにしよう。君の魔力が安定したら、食事を一緒に取ろう」
一緒に食事をとりたいという言葉に、愛情をとても感じて温かい気持ちになる。
そうだ。私達は一緒に食事をして仲良くなっていった気がする。
……お酒の力もあったかも。
「もちろんです。よく寝てくださいね。ご飯、楽しみです」
「私もだ。君と食事をとるのはいつもとても楽しい。じゃあ、あまり話すと君の体力を使ってしまうから」
「はい。またお待ちしています」
触れ合えないままだったけれど、フィスラの顔を見られて私はとてもほっとした気持ちになった。フィスラとの結婚という夢のような話も聞けた。
「結婚かあ……」
口に出すと更に恥ずかしくなって、慌てて布団をかぶる。
体調はまだ良くなかったようで。ベッドの上で悶えているうちに私はあっという間に眠りについていた。
**********
目の前には出来立てのポーションがある。その瓶をミスリアがにこにことしながら回収していく。
「ツムギちゃん、これで多分人と会っても大丈夫だよー。お疲れ様でしたー」
「本当ですか! 嬉しい……」
ほぼ一人で部屋にこもる生活は、思った以上に気の滅入るものだった。
ポーション液を持ってくるミスリアも、雑談はしてくれるものの忙しいのかすぐに戻ってしまう事がほとんどだった。
「師団長は今後処理をしているから、夜の食事は一緒にできると思うよ。伝えとくね」
「ありがとうございます!」
久しぶりにフィスラにも会える。じわじわと嬉しさがこみあげてくる。
今はまだお昼前だ。色々準備もしなくては。
私の心を読んだかのように、ミスリアが扉を開けてくれる。
「じゃじゃーん。こちらも呼んでおいたよ」
「ツムギさまー!」
「わ! マスリー! 会いたかった!」
扉から飛び出してきたのはマスリーだ。思わずぎゅっと抱き着いてしまう。
嬉しい。
「色々な事があって倒れてしまったと聞いて、とっても心配していました。またお仕えできるようになって嬉しいです!」
「私も、マスリーに会えて嬉しい!」
ふたりで手を取り合って喜んでいると、ミスリアはポーションの入った箱を台車に入れた。
「じゃあ、戻るねー。マスリー、この後ツムギはコノート師団長と食事だから可愛くしてあげてね」
「そうだったんですね。もちろんですラリー様! お任せください今まで以上に可愛くしてみせます」
「マスリー流石流石ー」
マスリーはミスリアに力強く頷いている。
なんだか仲いいなこの二人。
知らなかった人間関係をほほえましく見ていると、マスリーは私の手を握り力強く頷いた。
「じゃあ、さっそくドレスを選びましょう!」
「気合が入っているところ、申し訳ないんだけど……」
やる気のあるマスリーはとても有難い。しかし、今回はちょっと違うのだ。
申し訳ない気持ちでマスリーに近づいて私の考えを伝えると、彼女はにっこり笑って頷いてくれた。
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