第50話 断罪

 調査という名目で、色々な人が代わる代わる塔に出入りして一週間。

 私とフィスラは久しぶりに城に来ていた。


 調査中フィスラは半軟禁のような感じだったらしく、会うのも久しぶりだ。


 本人曰く、いつでも抜け出せる状態だったから特に気にならなかったと言っていたが。心強いのか図々しいのか迷うところだ。


「今日はミズキに会う事になるが、大丈夫か? 彼女から聖女の書を受け取ることになる」


「本人から受け取らないといけないんですか? 彼女は今どんな状態なんでしょうか」


「まだ私も聞いていないから何とも言えないな……。でもミズキもミッシェ殿下もいい待遇ではないだろう」


「聖女さまが私に素直に渡してくれるとは思えないんですが……。勝手に受け取ることは出来ないんですか?」


「聖女の書に、ミッシェ殿下の差し金で彼女の魔力に反応する鍵がかかっている状態だ。本来ならば一度開けた後ならだれでも閲覧可能になるはずだが……。これを解かせツムギの魔力を登録する。これはツムギが居なくても可能だが、公の場でやることに意味があるんだ」


 淡々と私へ説明するフィスラは、感情が読めない。しかし、私の手を握りしめじっと目を見つめて様子をうかがっている。


 こういうところが、私への気遣いを感じる。

 私は心強く思い、フィスラの目を見つめかえしゆっくりと頷いた。


「もちろん大丈夫です。聖女の書はきっととても大事なものですし。……処分はまだ決まっていないんですよね」


「そうだ。今日決定になると思われる。……良い処分にはならないと思うので、君にはつらいかもしれない」


 ミズキとミッシェの行動は、国家への反逆扱いとなるようだ。しかし、聖女召喚で呼ばれた聖女でもある為、現在保留となっている。


 ミッシェもまだ殿下という立場のままだ。少なくとも今日までは。


 そうして入った部屋は、謁見室の様だった。


 騎士に促され、私達は右側の椅子に座った。

 部屋の正面には豪華な椅子があり、王が座っていた。後ろには騎士や魔法師団の人たちもすでに控えていて、物々しい。見た事ない人たちは有力な貴族だろう。


 ミズキとミッシェは私たちの向かいに、拘束されたまま膝をついた状態で下を向いている。あからさまな罪人扱いに、目を見張る。


 どうやら私たちが最後のようだった。


「今回の出来事に関しては、他言してはならぬ。関わったすべてのものをこの場に呼んだ。この後、フィスラ師団長と他言無用の契約魔法を結んでもらう」


 王が淡々と今回の事を並べていく。


 魅了を使って騎士や魔法師を操った事。

 聖女の間に侵入した事。

 私とフィスラへの危害を加えた事。また、国家への反逆を企てた事。


 静かに告げられる罪状に、二人の顔は見えない。


「……とても、残念だ」


 最後に王がぽつりと呟いた。その声は思いのほか大きく響き、周りは静寂に包まれる。

 王からすればミッシェは息子だ。

 この状態に息子を置くことは当然本意ではないだろう。


「ならば、何故! 何故ミズキを聖女として取り立てないのですか! 確かにやり方は良くなかった。それでも、ミズキにはその資格があった!」


 ミッシェが急に顔をあげ、王に声を荒げた。その目は未だミズキに陶酔していて、本当にそう思っているのがわかった。


 フィスラがミズキの魅了については抜けていると言っていたから、これはミッシェの本心なのだろう。ミッシェは本当にミズキの事が好きだったのだ。


 無性に悲しくなってしまう。知らず、隣に居るフィスラの膝に手を乗せていた。その手をそっとフィスラが握ってくれる。


「ミズキは正規の手順を取らずに聖女の間に入った。更に、騎士や魔法師に魅了をかけ意のままに操ろうとした。国を乗っ取ろうとしたのだぞ」

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