第49話 プロポーズ
やることをぶつぶつと呟きながら考えているらしいフィスラは楽しそうで、力になりたいと思う。
夢中になる姿はどこか子供のようで、可愛いなとも思ってしまう。
気持ちのままに頭をなでると、そのまま大人しく撫でられている。大きい猫みたいだ。
「じゃあ今日はのんびりしましょう」
「そうだ。今日はその為に開けている。元聖女とミッシェ殿下の調査も明日からはじまるから君にも調査が入るだろう。私も当然受けることになる」
「フィスラ様にも、ですか?」
「魅了の魔法があるとわかっていたのに、何の対処もしなかった。聖女の書を手に入れる前に無意識に行っている魅了は、多少の好意を促すだけのものだったので問題視しなかったのだ。失策だ」
「最初から魅了が使えていたんですね。ミッシェ殿下は、本当にミズキちゃんの事を好きそうに見えましたけど……」
「ミッシェ殿下は、もともと非常に人間に関心が薄い方だったのだ。無能なりに仕事は行っていたが、ともかく人間に興味がなかった。私も似たようなものだったので、多少聖女に肩入れするのは問題ないと思ってしまった。聖女と王族の結婚には特に障害もなかったし、過去にも事例が多かった」
「難しいですね。あと安定で悪口出てますよ」
魅了での好意と、通常の好意に差はあるのだろうか。
少なくとも、聖女の間で私からミズキを守るようにしていたミッシェは、ただミズキの事が好きなんだと感じた。
「私も、恋愛など興味がわかなかった。研究だけして一生を終えるのがいいと思っていた。食事も、身体に問題が出なければそれでいいと思っていた。……でも、君に会って違うと気が付いたんだ」
コトリと、フィスラがグラスを置く。その音が思いのほか大きく響いてどきりとする。
私の手からもグラスを取り、テーブルに置いた。
「君といれば食事も楽しいし、研究以外の時間にも楽しみがあるとわかった。そして、君の事を考えていると、研究がはかどらない事もある。こんな風に気をとられることがあるのを、煩わしいとは思わないで嬉しく思う日が来るだなんて」
「フィスラ様……」
「問題が解決したら、私と結婚してほしい」
幸せそうに微笑んで、フィスラが額と額をくっつけてくる。
彼の微笑みが近くにあって、おでこがあったかい。
返事をしようと思ったのに、胸がいっぱいになって声が出てこない。
代わりに、フィスラの背中に手をまわした。
「返事は聞かせてくれないのかな?」
いっぱいいっぱいになってしまった私に、フィスラがからかうように言う。それでも、くっついたフィスラの胸からはどきどきと早鐘を打つ心臓の唄が聞こえてくる。
フィスラも緊張してるのかも。ふふふ、と自然に笑いが出てくる。
「もちろんですフィスラ様。とても大好きです。一緒に居られると思うと、本当に嬉しいです。持参金ははずませていただきます」
「こら。持参金とかいうんじゃない」
「貴族的なあれかと思いまして」
「貴族的などれだ」
くっついたまま、適当な会話にお互い笑ってしまう。
「私は、君が居れば十分だ」
「わーほんとですかー?」
「本当だ。瘴気を魔力に変えて持っている女性などツムギしかいない」
「全然良くない条件!」
「奇跡的だと思うが」
「モルモットじゃないんだから」
身体をはなして、ぎゅっと頬をつねる。痛いはずなのに不快そうなそぶりもなくにやつく彼に、やっぱり笑ってしまう。
「猟奇的な実験は、なしですよ」
「もちろんだ。生涯大事にしようと誓おう」
ぎゅうう、と引き寄せられうっとりと目をつむる。フィスラの肩に頬を寄せると、髪をそっと撫でられる。
「問題の解決はいつでしょう」
「いつでも君は色気がないな」
「ありますよ」
頬に唇を寄せると、ばっとフィスラが目を見開いて頬を押さえた。
「ツムギ……!」
頬を赤くしているフィスラが可愛くて、もう一度抱き着く。
「ふふふー色気は感じましたか?」
「君という人は……。そもそもそれは色気なのか?」
「そんな顔を赤くして言っても、説得力ありませーん」
そうからかうと、フィスラは恨めしげな顔をする。
「まったく。……問題は、一週間もせずに解決するだろう」
「えええ。早い」
「それはそうだ。明日から調査が入る。気持ちをしっかりもって過ごしてくれ。何か辛くなったら、私を呼ぶように。ミズキやミッシェと直接会う時は、私も同行するので安心してくれ。」
「ありがとうございます。とっても心強いです。……あの、それとは関係ないというかあるというかなんですが、一つお願いがあるんです。聞いてもらっても、いいですか?」
「ツムギの願いならなんでもかなえようと思っている」
「そんな重いやつじゃないです。ええと、フィスラから頂いたネックレス割られてしまったので、新しいものが欲しいのです。お守りのようで嬉しかったのに、割れてしまって悲しいんです。私がお金払ってもいいので選んでもらいたいです」
「君が大金持ちになっただけで、私が貧しい訳じゃない。もちろん選ばせてもらう。指輪にネックレス、髪飾り何でも」
「そんな沢山はいいです」
「君が私の色を纏っていることが、私も嬉しいのだ」
真面目な顔でそう言われると、頷くしかない。私だって本当は嬉しいのだ。手を繋ぎ、フィスラの肩に寄り掛かった。
「楽しみにしています」
「ああ。私もだ」
フィスラは私の頭にキスをして、再び髪の毛を撫でた。
その心地よさに、私は目をつむって身を預けた。
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