第17話 権力争い
「ふむ。二人いる事には意味がある、か。一理あるかもしれません」
「まあ! フィスラ様が仰ったのではないですか。ツムギは無魔力だから聖女ではないと」
「そうですが、聖女でない事と無価値であることは同じではないという事です」
フィスラの返事に、ミズキは悲しそうな顔をした。庇護欲をそそる、完璧な顔だ。
「フィスラ様が、このように目が曇ってる方だとは思いませんでした」
「目が曇っているかどうかはこちらで決めます。ミッシェ殿下、私はツムギの無魔力に興味がある為、雇うことにしました。城の客室が厳しいのであれば、塔の方に部屋を作り移動させましょう」
フィスラは有無を言わさない口調だ。昨日は生活が保障されて喜んだけれど、これでは今の身の安全が危なそうでどきどきする。
ミッシェの怒りに触れて、すぐに追放になったりしないだろうか。
しかし予想に反して、ミッシェはすぐに頷いた。
「それならば、構わない」
「そんな……。殿下、私嫌です」
「すまないミズキ。これ以上は不介入だ。城に居ないなら、そこまでうるさい声は上がらないだろう」
「それでも嫌だわ。なんでそもそも二人居るの。しかもこんな地味な見た目の人。フィスラ様の儀式に失敗があったんじゃないかしら」
確かにこの三人と並ぶとかなりの見劣りではあるけれど、そんな風に言わなくても。自覚があるだけにへこむ。
「申し訳ありません。聖女様のご意向に沿えない結果になってしまい、とても心を痛めています。私もこの現象の原因を探りたいと思っているのです。ツムギを雇うことによって、聖女召喚について解明が進むかもしれません。聖女様への貢献もできるかもしれないので、私にその機会をお与えください」
フィスラは恭しく、ミズキに対して礼をした。この世界での聖女の権力は凄い。
「……私の為に働くなら、いいわ。でも、私に対しての誹謗中傷の責任をとってもらいたいわ。この人が居るせいで、凄く嫌な思いをしているの」
「それでしたら、私のサインをして、ミズキ様が聖女であることの証明をしておきましょう」
「それはいいな! 魔法師団長のサインなら、異議を唱えるものは居ない」
フィスラのサインは絶大な効力のようだ。
まだミズキは不満げな顔で私を見ていたが、諦めたのか何も言わなかった。
「それでは、私からは書類の作成とサインを。また明日にでも用意しましょう。そして、ミズキは一週間以内に移動させますので、それまでは我慢して頂けると助かります」
「塔に住むのか?」
「そうですね。知っての通り私の私室もありますし、団員も住んでいます。城以外で食事がとれるのは塔のみなので、現実的にここになるでしょう。聖女様と顔を合わせることは、あまりないと思いますので」
フィスラが淡々とミッシェの質問に答えていく。
「あまりって事は、こちらに来ることがあるのかしら」
ミズキは黙って聞いていたが、私の存在が城にあることが嫌らしく、口を挟んだ。
「私の研究助手として動くこともありますし、そうなる可能性もあります。申し訳ないですが、我慢して頂けると助かります」
「……。ミッシェ様。本当にどうにかならないのですか?」
悲しそうな顔をして、ミッシェの袖をつかむ。どうにも嫌われてしまっている。
ミズキには同郷の仲間意識があった為、こうも嫌がられると悲しくなる。
「……そうだな」
「ミズキ様。聖女様には相応の暮らしがありますので、私達とは違う生活となられるでしょう。私の助手とはいえツムギは庶民の扱いになりますし。それ程気にすることはないかと。聖女様とは全く違います」
「庶民なら、そうね。あまり私の視界には入らないでほしいけど」
「視界に入ることもあるでしょうが、目立たないので問題ないでしょう」
フィスラの言葉にミズキは私の事をちらっとみて、笑う。
「確かにそうだわ」
「聖女様については全面的に教会が支持するので、もしかすると世俗的な生活からは遠ざかる可能性もありますが」
秘密を伝えるようにフィスラが言う。贅沢は出来ないということだろうか?
ミズキもその真意はわからなかったようだが、同じ感想を持ったようでムッとした顔をする。
「殿下。なんなんですか、この人」
「聖女様の前ではただの凡人の魔法師ですよ。失礼があったのなら謝ります。教会の力も聖女の力も圧倒的なので、誰も逆らえません。もちろんミッシェ殿下も私も尽力いたします」
フィスラは嘯いて、とても優雅にお茶を飲んだ。
「そうよね。まあいいわ。ツムギぐらい、許してあげる」
「ありがとうございます。彼女は立場を研究助手としましたが、彼女の体質をはかる実験となります。全く違う立場だという事を、ご理解いただけて良かったです」
「まあ! まるでモルモットね。頑張るといいわツムギ」
私に見下したような視線を向けた後、ミズキは満足げに笑った。
「ツムギも、美味しいから飲むといい。随分と良いものを用意したようだから」
「……頂きます」
「良かったわねツムギ。私と美味しいお茶が飲めて」
まだ、嫌味らしきものは続いていたけれど、気が付かないふりをして私もお茶を頂く。
作法には問題ないか気になったが、それよりも本当にいい香りのお茶が口の中に広がり目を見張った。
「本当に、とても美味しいです」
「そうか良かった。塔にも用意しよう」
何事もなかったように、フィスラがほほ笑む。
「気に入ったのなら、後で銘柄を教えてやろう。菓子も、女性人気があるというものを用意したので、食べてくれ」
ミッシェも何事もなかったように、優しい目を私達に向けてくる。
貴族とは怖い。
それでもケーキも焼き菓子も美味しかったから、結構しっかり食べてしまった。
私も案外図太いのかもしれないと思った。
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