【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

第1話 聖女召喚のじゃない方

 聖女召喚って、本当にあるんだなあ。


 ふかふかのベッドで、謎のいい匂いのお香に包まれながら、私は他人事のように考えた。

 異世界転移、という今までアニメやラノベでしか見た事なかった世界に自分が居るのだという実感が、なかなか湧いてこない。


 実際、聖女に関しては他人事だったのだが。


 **********


「儀式は無事に成功だ!」


 周りから歓喜に盛り上がる声が聞こえる。


 仕事を終えてのコンビニ帰り。

 目の前で光る何かを見たと思ったら、次の瞬間にはゲームのような仰々しい衣装を着た人々に囲まれていた。

 彼らはご丁寧に髪の色も目の色もカラフルだ。


 教会のような荘厳な雰囲気で、ステンドグラスのようなものがはめ込まれている。

 周りはほの暗く、ろうそくのような明かりでぐるりと周りを囲まれていた。


「ここは何処……?」


 状況が把握できずに呆然としていると、隣から声が聞こえる。


 そこで、私は自分の隣にもう一人少女がいる事に気が付いた。


 黒髪の可愛い女の子が、この空間で唯一私に馴染みのあるセーラー服を着ている。

 上半身を起こし、半分倒れ込む彼女の下には、光る魔法陣のようなものが見えた。


 その円の中心に彼女が居る。


 声をかけようか迷っていると、金髪のとても顔が整った豪華な顔をしている青年が、早い足取りで私たちに近づいてくる。

 彼の後ろには肩までの黒髪に重々しいローブを着た、こちらも整った顔をした青年がゆっくりと続く。


 ここの顔面偏差値高すぎじゃない?


 私は驚いて周りを見たけれど、他の人はそうでもなさそうだった。

 良かった。


 しかし、こちらに来た見る彼らの空気は剣呑だ。金髪はイライラした様子を隠しもせずに、声を荒げた。


「これは……どういうことだ。何故二人いるんだ、コノート師団長」


「聖女召喚の儀式の際に、何故か1匹紛れてしまったようだな。……これはどういった事だ」


「そんな軽く言うことじゃないだろう。そして、この二人のうちどちらが聖女なんだ。早く調べろ!」


「……ミッシェ殿下の仰せのままに」


 黒髪の男の人が、金髪に恭しく礼をした。その芝居がかった仕草が見た目と相まって本当に格好良くて、思わずどきりとしてしまう。


 しかも殿下って事は、このキラキラの金髪の男の人は王子様なの?

 うわー顔も良くて地位も高いとかミラクルすぎる。


 黒髪の人も師団長と呼ばれていたので、こちらも高い地位に違いない。

 とても凄そうな二人に、私の心は一瞬浮足立った。


 しかし、そんな事を考えている場合ではない。


 近くで言い争っている二人は、聖女召喚と言った。

 そしてどちらが本物かと。

 という事は、偽物が居るということだ。


 私はこの状況をなんとなく理解した。


 先程から周りに圧倒されているらしい、驚いた顔をした女の子。黒髪はさらさらのつやつやで、天使の輪が光っている。

 ぱっちりとした二重にはっきりとした可愛い顔の作りは、まさに聖女。


 セーラー服を着ている事だし、きっと女子高生だろう。


 片や、コンビニ帰りの私は仕事疲れで目にくまが出来ている。加えて疲れ切っている金曜だったのでスーツはよれよれ、地味顔で眼鏡。更に言うなら年齢もアラサーだ。


 間違いない。セーラー服の彼女が聖女だ。

 そもそも魔法陣の中心には、彼女が居るし。


 私は自分の立場のまずさを自覚した。


 聖女じゃないからって、このまま放り出されたり、しないよね?


 私の気持ちもお構いなしに、師団長は女子高生の前に立った。


 女子高生は気圧されたように後ろに下がろうとするが、彼はさっと彼女の腕をつかみ逃げられないようにした。

 女子高生が不快そうに手を外そうとするが、気にする素振りもない。そのまま空いている方の手を女子高生の頭の上に乗せ、目をつむる。


 しばらくそうしていたが、突然何事もなかったように手を離した。そのまま私の前までやってくる。


 近くで見ても、本当に驚くほど整った顔だ。冷たい顔をしているが、長い黒髪は重々しい衣装ともあっている。

 私がじっと観察していると、彼は不思議そうに小首をかしげた。


 先程と同じように頭に手をやろうとしたようだが、その手は方向を変え私の眼鏡にそっと触れた。


「なんだこれは」


「え? あ、これは眼鏡です。私は目が悪いので」


「ふうん。なぜわざわざこんなものをしているんだ。そんなのは魔法で治せば良かろう。邪魔だ」


 彼がそう言うと、何の予備動作もなく私の眼鏡は砕けた。

 すっかり跡形もなくなってしまった。途端に私の視界はぼやけてしまう。


「えっ。なにするの! これしかないのに!」

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