第37話 告白

 勢いで言ったけれど、本当に勘違いだったら死ぬしかない。フィスラの事をつねっているので赤くなる頬を隠せもしない。


 でも、でもやっぱりそれでも聞きたくて、まっすぐフィスラを見る。


 フィスラは私の言葉を理解したのか、じわじわと赤くなり、視線を逸らした。


「確かに、そうだな……。ああもう、女性に慣れていないのが、ばればれだ」


「私の方が慣れてないと思いますけどね。フィスラ様はかなりモテてますし、何もない事はないでしょう」


「興味がない女性と付き合ったところで、何のスキルも上がらない事がわかったところだ」


「付き合った事あるだけ、羨ましいです」


 そして、とても嫉妬します。

 ここは頑張って飲み込んだ。えらい。


「ツムギが誰とも付き合ったことがなくて、嬉しい。過去の事など、今に対して何も関係ないとわかっているのに不思議だ……」


 本当に不思議そうにフィスラが言うから、同じような気持ちになっていてくれると実感できる。


 私はフィスラの頬を離してあげた。少し赤くなっている。

 私は回復魔法なんて便利なものは使えないので、優しくなでておいた。


 その手をフィスラが握る。優しくて温かい。


「フィスラ様」


「ツムギ、君の事が好きだ」


 言葉と共にぎゅっと握られる手がフィスラの気持ちを表しているようで、何故だか泣きそうになる。


 どんな人だって手に入れられそうな人が、真剣にこちらの言葉を待っている。

 何だか嘘みたいで、夢みたいで、それでいて可愛くて色々な感情が襲ってくる。


「私、フィスラ様に責任を感じられていると思ったとき、とても悲しかったんです」


 すぐさま答えを言わない私に、焦れた様子もなく頷いて聞いてくれる。

 ゆっくりとした優しさに、勇気が出る。


「それで、理不尽に怒ってしまったりもしました。その時は……仲良くなりたかったから、と言いましたが本当はきっと違いました」


「違った、とは?」


 フィスラが握っていた私の手をそっと離し、両手で握りなおした。

 指が長いな。爪も短くて、意外とごつごつしてる。


 フィスラの手をいじりながら、言葉を探す。


「……気持ちが一方通行だったのが、悲しかったんです。無意識に期待していて、恥ずかしかったんです。私は、今までもてたこともなく、男の人とは無縁でした。だから、付き合うとか以前に好きになる事がわからなかったのかもしれません。だから、フィスラ様がお友達になってもいいと言ってくれたとき、嬉しかったんです。報われた、と思いました」


「そうか」


 短い相槌が彼らしい、と思う。


「でも、誤魔化していたんです私も」


 手から視線を離して、彼を見た。


「私もフィスラ様が好きです」


 言った途端、フィスラががばりと私の事を抱き寄せた。首にさらりとフィスラの髪の毛が落ちる。

 頬に、フィスラの頬が触れる。


 凄くどきどきしているのに、その暖かさに安心する。涙が出る。


「ツムギ……うれしい」


「私もです。好きな人が居るって、こういう事だったんですね」


 異世界でこんな人を好きになれることがあるなんて。


 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくれるフィスラの背中に手を回して、はあと息をつく。


 なんだか、すっかり落ち着いた気持ちだ。どきどきとしたフィスラの心臓の音も聞こえてくる。体温って安心感があるんだな。


 安心して、もっと触れたくて、緊張してどきどきもする。

 不思議な感覚だ。


 穏やかな気持ちのまま、そういえばと思い出す。


「ちなみに今日は、何の用だったんですか」


 フィスラは私の髪の毛を触りながら、嫌な声を出す。


「こんな時に、それなのか」


「でも、気になるじゃないですか。絶対この用じゃなさそうでしたし」


「確かにまったくの想定外だ。……でも、もう少し浸らせてくれ」


 髪の毛に触れる手が、優しく頭を引き寄せた。


「ツムギ……すきだ……」


 吐息のように聞こえる言葉が熱い。フィスラの背中をゆっくり撫でる、


「私もです。フィスラ様」


 身体を一旦離して、おでこをくっつける。本当にすぐそこに、フィスラの真っ黒な瞳がある。


「本当に、宝石みたいに綺麗」


「考えたこともなかったが、自分の色を褒められるのも嬉しいものだ。自分の色に染めるという習慣も、わかった気がした」


「フィスラ様は褒められ慣れてますもんね」


「貴族だからな。……君もこの顔は好きだと言っていたな。ご褒美になれる顔で良かった」


「あわわ。もー失言は忘れてください」


「……違うのか?」


 不満そうに言われて、笑ってしまう。


「違くないし好きですけど、顔だけじゃないですよもちろん」


「なら良かった。好感度は高いに越したことはない」


 乙女ゲームみたいなことを言って、フィスラはにやっと笑った。初期値が高そうでずるい。

 そしてするりと私の腕を抜けて立ち上がってしまった。


 急に寂しくなってしまい、戸惑ってフィスラを見上げるとふっと笑ったフィスラの顔が近づいた。


「!!!」


 頬にふわっとした感触を残して、フィスラが離れた。

 虚を突かれた私は、頬を押さえて呆然としてしまう。


「続きは問題が解決してから」


「つ……つづきって!」


 私がまるで期待してるかのように笑って、フィスラは今度こそカップをもってお茶を淹れなおしに行った。

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