第5話 お招き

「別の方法でお願いします! あとミズキちゃんに傷つけるのもやめてあげてください」


「君と聖女は知り合いだったのか? そうは見えなかったが」


「全然知らないですし、名前も今初めて聞きました。でも、痛いのは誰でも嫌なので」


「それは思い至らなかったな、考慮しておこう。別の方法を考えておく。この方が簡単で分かりやすいが。……それはそれとして、これを君に」


 駄目な思考が垣間見えた。


 私が慄いていると、彼はそっと私の腕に触れた。手が離れると、腕には細い金色の腕輪がはまっていた。


 途端に視界がクリアになり、驚くほど整った顔が目の前に現れる。

 魔法だ!


「これ……眼鏡じゃないですか! 良かったこの世界にも眼鏡的なものがあったんですね!」


「こちらはちゃんと作用があるようだな。昨日作ったんだが、良かった」


「えっ。わざわざフィスラ様が作ってくださったんですか? すごい助かりました。……ええとこれ、度があってますね」


 昨日壊れたものも多少度があっていなかった。しかし、これはただの腕輪に見えるにも関わらず視界がかなりクリアだ。


 今まで使ってきたものの中で、一番しっくりくる。

 凄い。


「当然だ。これは魔導具というもので、それを通して見えている視界を随時調整しているのだ」


「なんだかわからないけれど、驚くほど便利なものですね……。こんなものがあるなんて、この世界の人はラッキーですね」


「前にも言ったが、貴族は目が悪ければ治療する。庶民で魔法が使えるものはほぼ居ないので、当然作れるものは居ない。使っているのは君だけと言えるだろう」


「え? じゃあこれはどうしてここに」


「私が作ったと言っただろう?」


「今まで存在していないものを作ったんですか……?」


「その通りだ。私の有能さに今頃気づいたのか?」


「……!」


 皮肉気ににやりと笑う。その笑い方があまりにも雰囲気にあっていて、どきりとしてしまう。

 そもそも私は今まで喪女だったので男の人に耐性がないのだ。それに加えてこんな整った顔だなんて、初心者にはレベルが高すぎる。


 遠目で見ただけで驚いた美形が、魔導具のおかげでくっきりはっきり見える。

 無防備のところを殴られているようなものだ。


 落ち着こうとくだらない事を考えつつ、頬を押さえて下を向いた。


「と、ともかく有難うございます。とても助かりました。これなら働くことも出来そうですし」


「そうだな。働けそうで良かったよ」


 そう言って楽しそうに笑うフィスラには、先程のような猟奇的さは全くなかった。

 騙されそうだ。


「魔法って本当に便利ですね。私に魔法が使えないのが残念です」


 どうやら魔法の世界は日本とは全然違いそうだし、面白いものがたくさんありそうだ。ゲームも好きだったので、魔法という言葉自体にもときめくものがある。


 わたしがため息をつくと、フィスラは嬉しそうに私の頬を撫でた。


「いや、私はツムギに魔力がなくて本当に良かったと思っている。この世界にまったく魔力がないものは居ない。色々研究してみたい。とても楽しみだ」


 ……やっぱりこの人猟奇的じゃない?

 私は自分のこの先が心配になった。


「とりあえず、今日は私の研究棟に来て頂こう。いいな」


 それでも寄る辺のない私は、この人に従うしか道はない気がした。


「お伺いさせていただきます」


 私はため息と共に、恭しく礼をしたのだった。


 **********


「フィスラ様は忙しくないのでしょうか……」


 私が疑問を口にすると、彼は眉を寄せて反論した。


「なぜそのような事を思うのだ。魔法師団は研究もあるが魔導具の制作も行っている。忙しくないはずがなかろう」


 そんな不満げにされても、私の疑問は最もだと思うのだ。

 フィスラは私の前で優雅な仕草で紅茶を飲んでいる。


 目の前にはパンやスープ、サラダや謎の肉が並んでいる朝食。

 何故か私とフィスラの前両方に並んでいる。


「一緒に朝食をとられると思っていなかったので」


 あの後フィスラから案内され、そのまま朝食が並ぶ部屋に案内された。驚く私をよそに。彼はそのまま席に着いた。


 間違いじゃないかと思ったけれど、手配をしていたのは彼のようで、給仕もメイドも慌てた様子もなく彼の椅子を引いた。


 そして、現在向き合って座っている。

 想像を超える朝食の部屋の豪華さに、夢じゃなかったんだなと思う。


「この後君とは一緒に研究等に向かうのだ。その前に聞きたいこともあるし、この方が効率的だ」

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