第54話 【最終話】これから
決意を新たにしたようなフィスラがとても格好良く見え、こんな時なのにどきりとしてしまう。
そんな私に気が付かないフィスラは、そのままさっと立ち上がってしまった。
なくなってしまった体温が恋しい。
「お茶をもう一杯入れよう」
「冷たい飲み物がいいです」
「……」
私が希望を言うと、フィスラは無言で手から氷を出してカップにいれた。
「わー凄い特技ですね!」
「特技ではない魔法だ」
「お酒を飲むときにも良さそうです」
「全く君は情緒がないな」
「フィスラ様の氷の入れ方も雑でしたけど……」
「こんな時に急に希望を言った君に呆れたのだ」
「好きになったとかじゃなく?」
「今でも好きなのに?」
不意打ちだ。
私は赤くなった顔を誤魔化すために、冷たいお茶に目線を落とした。
「今後の対策について、ゆっくり考えていく必要がありますね」
「そうだな。聖女召喚についても、在り方から帰る必要がある……。魅了が使えるものがよばれない様にする必要もあるかもしれない」
「まずは魅了への対抗策を考えるのはどうでしょう?」
「そうだな、流石ツムギだ。そっちの方法は全く考えていなかった。まずはそちらを研究していこう。魅了が使える元聖女が居る今がチャンスだといえる。もし対抗策が見つからないまま聖女召喚があっても、もう同じことにはならないだろうが」
「聖女の扱いが問題だという事ですよね」
「あれの内容が暴かれた今なら、今後そういう問題はないとは思うが。だが対策は大事だ」
「それで、もし聖女召喚があっても、いい関係が築けるようになればいいと思います。ミズキちゃんだって、魅了が効かなければこんな事は起きなかったかもしれないですし」
「可能性は……そうだな。魅了も使いどころを間違えなければ、かなり使える魔法だと思う。案外いい導き手になるかもしれない」
「えらい人はちょっと自由な方がいい気がしますものね!」
「……君の意見は偏っている」
そうだったのだろうか。
確かにフィスラを見ていると、自己犠牲的なものも必要な気がしてくる。まあ、フィスラは趣味だからっていうのもあるだろうけど。
「二人の刑って、どういうことだったんですか?」
「ミッシェとミズキは、処刑を免れた。今後はミズキ隷属契約をして研究の下働きとして使う事になる。扱いは正直良くない。ミッシェは……そうだな、処刑では、ない」
言いよどむフィスラに、罪の重さを感じた。
「そう、だったんですね」
「彼らの事が気になるか?」
「気にならないと言えば嘘になります。けれど、したことを考えれば仕方ないのかなと」
「そうだな。今は、楽しい事を考えよう」
「フィスラ様の楽しい事ってなんですか?」
「私達の結婚式に、後は前に言っていた続きとか」
すっと耳元でささやかれてかあっと顔が熱くなる。
思いが通じ合ったあの日に言われた『続きは問題が解決してから』が、まさに叶っている状態だという事に気が付いた。
「つ……つづき……」
「とても楽しみにしていた」
甘い声が耳元で響くので、逃げ出しくなるのにもっと聞いていたくて混乱してしまう。恥ずかしくて、ぎゅうぎゅうとフィスラに抱きついて、胸に顔をうずめた。
「随分積極的だ」
笑いを含んだ声で、フィスラがささやく。
ちがう、と言おうとして顔をあげると、フィスラの顔が驚くほど近くにあった。そしてその顔がどんどん近くなってぼやけ、唇にふわりとした感触があった。
初めてしたキスは一瞬だったのに、驚くほど幸せな気持ちと愛しさが沸き上がってくる。愛おしそうに微笑んだフィスラの顔が本当にすぐそばだ。
不思議な事に、すぐさままたキスをしたくなってしまう。
「フィスラ様、好きです」
その衝動のまま自分からもう一度、目を瞑ってキスをした。フィスラは私の頭をぐっと掴み深く唇を合わせる。その少し乱暴な仕草が、求められている感じがして嬉しい。
私もフィスラの背中を撫でる。大きい背中と体温にくらくらする。
段々と息が苦しくなって、フィスラの胸を押して身体を離した。
「も、くるしいです…」
唇が離れ、はあと息をついた。一息ついた私を、フィスラは性急に再び抱き寄せた。
「まだ、全然足りない」
再び感じる体温に、私もまだ足りないと感じた。
本当に、全然だ。
この後の研究の事は二人ともすっかり飛んでしまい、キスに夢中になってしまう。
唇を離したフィスラと目が合うと、笑みがこぼれる。私は再びフィスラにキスをした。
今、とてもしあわせだと、フィスラの体温を感じながら思う。
もし他の世界で聖女召喚が行われても、もう私はフィスラが居るこの世界からは離れることはないだろう。
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?! 未知香 @michika_michi
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