第34話 聖女の企み
「わー玉座ってとってもキラキラしてますね」
「もちろんだ。更に言うと様々な魔法陣が展開されているため安全面も驚くべき高さだぞ」
「値段だけじゃないすべてが集結したものだったんですね……」
私が慄いていると、なにやらめでたそうな曲が流れ王様が入場し、玉座の前に立った。続けて王太子のミッシェ、更に聖女であるミズキが並ぶ。
ミズキもミッシェも下を向いているためその表情は見えない。
初めて見る王様は、上に立つものとしての威厳を感じる。ミッシェに似た面立ちの壮年男性だった。
「皆のもの。良く集まってくれた。今日は聖女召喚の成功と聖女を皆に知らしめるため開いた」
王様の声は良く通り、背筋を伸ばさなければいけないという威圧感を感じる。そんなに大きな声を出していないというのに、不思議だ。
周りも固唾をのむように、次の言葉を待っている。
「近年、我が国でも魔物が増え凶暴化している報告が相次いでいる。その為、三百年以来の聖女召喚に踏み切ることになった。コノート魔法師団長には尽力してもらい、見事成功を収めた」
フィスラの名前が出ると、フィスラに対しての拍手が起こった。
フィスラは一礼で返す。
何の動揺もないその姿に、ここに居るだけで動揺している自分との違いを感じた。
当たり前なんだろうけど、貴族で偉い人なんだな。
「聖女ミズキよ。こちらへ」
王様に促され、ミズキは王様の隣に並んだ。白の繊細なレースがふんだんに使われた、肌の露出の少ないドレスを着たミズキは聖女の名に相応しかった。
顔をあげたミズキの美しさに、周りが息をのむのがわかった。
「聖女ミズキは、素晴らしい力を我々に見せてくれるだろう」
「未熟ながら、この世界に光をもたらせるよう努力したいと思います」
隣で眩しそうな顔をして、ミッシェがミズキの事を見つめている。
「聖女ミズキには、王家に代々受け継がれている聖なる書を授与する。ミッシェ」
ミッシェに声をかけると、ミッシェは家臣から受け取った聖なる書を持ち、ミズキの前に立った。ミズキは跪いて当然のようにそれを受け取った。
何度か練習したのだろう。無駄のない動きだ。
ミズキはその書を皆に見えるように掲げた。
古そうな表紙の何の変哲もない本に見えるが、代々伝わるという事は、かなりの年代物なのだろう。
周りからは、割れんばかりの拍手が起きている。
「……やられた」
恍惚としたような雰囲気の中、ひとりフィスラが悔しそうにつぶやいた。
顔は笑みのままだが、私の手に添えた手に力が入っている。
良くわからないけれど、私はフィスラの手を撫でた。
「こちらの書には、魔導師団長しか解けない封印がされている。聖女と魔導師団長の魔力によって、かつての聖女の言葉が蘇るのだ。コノート師団長こちらへ」
ミッシェの言葉にフィスラは頷いて壇上へ上がった。
和やかにすすんでいるが、フィスラに掴まれた腕が痛く気がかりだった。
ミズキがそっとフィスラに聖女の書を差し出すと、フィスラは手で魔法陣を描き何かを呟いた。
魔法陣は空中でキラキラと輝いて、とても綺麗だ。そこにミズキが手を添える。
キラキラした光に、白いふわふわとした魔力が加わった。
光は回りながらそのまま本に吸い込まれていき、消えた。
「読めるか? 聖女ミズキよ」
ミッシェが問うと、ミズキは表紙をそっとめくった。
優雅な手つきだけど、目は真剣に文字を追っているように見える。
しばらく見入っていたが、一息ついてミッシェと王様に頷く。
「読めましたわ。これで間違いなく皆様のお役にたてると思います」
ミズキの一言で、まわりが更に盛り上がった。
「さあ、この後はパーティーを楽しんで行ってくれたまえ」
フィスラも壇上を下りて戻ってくる。
先程のつぶやきはどういう意味だったのか聞きたかったけれど、にこりと笑いかけるフィスラがここで話すなと告げていた。
「甘いものでも食べよう。ツムギ」
「はい。是非頂きましょう」
良くわからないけど、お誘いは大歓迎だ。疲れた時は甘いもの。
間違いない。
「コノート師団長」
手を取り合って移動しようとしたところ、呼び止められる。
振り返るとミッシェとミズキがにこにこと立っていた。
「先ほどはありがとうございました殿下。聖女ミズキ」
フィスラが礼をするのを見て、慌てて私も礼をした。
「コノート師団長のおかげで、聖女としての活躍を後押しされました。私、頑張りますね」
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