第47話

 大きな丸テーブルが一つ。そして赤い絨毯。

 眼の前にはオフィーリアが『人間』の姿で紅茶を味わっていた。ポットから漏れる湯気が、淹れたてのお茶の香りを部屋に振りまいていく。

「いい匂いだな。インドのものか」

 唯依ゆよりはティーカップにほおを近づけながらその香りを吟味する。

「さすがは大英帝国、植民地の産品が豊富なことだ。搾取の香りというやつか」

 すざくは驚く。唯依ゆよりがこんな嫌味混じりの言葉をはくところを、初めて見たからだ。

 毒づかれた側のオフィーリアはその言葉に反応するわけでもなく、ただお茶をすすめる。

 先程の出来事の後、すざくはオフィーリアの『船主室』に招かれる。色々話したいこともあるのだろう。『魔法少女』としての姿を見られた、とあれば。寝ていたはずの唯依ゆよりもいつの間にか甲板にその姿を現し、当たり前のようにこの招待に応じていた。

「わが偉大なる大英帝国もかなりガタがキてしまった」

 オフィーリアがテーブルの上に白磁のティーカップをそっと起きながら、口を開く。

「欧州大戦――かなり戦費を浪費してしまった。ドイツが余計なことしなければ、こんなことにはならなかっただろうに。結果、漁夫の利を得たのはアメリカというわけだ」

 忌々しそうにそうオフィーリアはつぶやく。

「そのアメリカとかつて戦ったのは、貴国ではないのか。今回は味方だっただけマシだったのでは」

 #唯依ゆよりがまた嫌味を言う。

 はらはらするすざく。それを見てオフィーリアはため息をつく。

「心配ない。この小生意気な唯依ゆよりとは旧知の仲でな。まあくされ縁ではあるが、ともに島国の『魔法少女』。祖国を思う気持ちの真摯さはお互いに認めているところだ」

 それに、とオフィーリアは続ける。

「日英同盟もあることだしな。いまは同盟国の『魔法少女』だ。この船を選んだのもそのせいだろう」

 無言でティーカップを傾ける唯依ゆより。すざくは二人の間柄の親密さに、なにか羨ましいものを感じる。

「さて、疑問がある」

 オフィーリアが口を開く。

「大戦は終結し、客船航路にも平穏がもたらされた。しかし、なぜ――この日本近海の洋上で攻撃を受けるのだ。それもドイツのUボートに」

 オフィーリアはそこまで言うと、じっと唯依ゆよりを見つめる。

「巻き込んだな。われを」

 オフィーリアの重々しい言葉に、小さくうなずく唯依ゆより

「あの『魔法少女』が暗躍し始めている。この日本を舞台に。知っているだろう、ドイツの『魔法少女』カティンカ=クンツェンドルフを。今彼女はソ連赤軍に身をおいている――」

 その名前に明らかに反応するオフィーリア。そして目を閉じる。何かを思い出すような表情で―― 

 

 

 

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