第11話 二人だけの懲罰房

 普段の居室とは違う部屋を二人は『強制的』にあてがわれた。

 入口に『懲罰室』と銘打たれたその部屋には、小さなベッドが二つ。机もなければ、タンスもない。部屋の奥には、小さなトイレの部屋が別にあるばかりであった。

 ベッドの上に腰掛ける二人。それは当然、唯依ゆよりとすざくであった。

 あの全校集会の後、寮の自治会である『ヴィヴォンヌ集会』の役員の生徒に取り囲まれ、この部屋に『連行』された。

 すざくは呆然とした様子で、『懲罰室』の扉を見つめる。重々しい鉄の扉。そして、それには外から鍵が厳重にかけられていた。

「これって......犯罪者扱いでは......」

 力なくそうすざくはもらす。唯依ゆよりは手持ち無沙汰に、足をベッドのよこにぶらぶらさせていた。

「高等教育の府には、自治権がある。中世ヨーロッパの大学からの伝統だな。この聖アリギエーリ高等女学校もそれと同じく、自治組織『ヴィヴォンヌ集会』が高度な自治権をもっているのさ。警察権も、そして司法権も」

 すざくは唯依ゆよりの難解な言葉の意味をゆっくりとかみしめる。

《自治権......司法権......》

「先ほどの腕章をつけた生徒は『ヴィヴォンヌ集会校内治安委員会』の生徒であり、これから我々がかけられる裁判は『ヴィヴォンヌ集会寮内魔法少女裁判』というわけさ」

 頭の中がぐるぐるとまわるすざく。警官と話したこともほとんどないのに、いきなり裁判にかけられることになるとは。

「まあ、こういう華族の子女のみの学校でもあるしね。厄介ごとは当事者同士でどうぞ、という官憲の忖度というべきなのかもね。『華族不介入の原則』さ」

 困惑するすざくをしりめに、まるで台本を読み上げるように説明する唯依ゆより。しかし、その説明はすざくの頭には全く入っていないように見えた。

 唯依ゆよりはそっとすざくの頭を抱き寄せる。

「すまない」

 突然のことにおどろくすざくに、唯依ゆよりは話しかける。

「僕のせいで、物巾部ものきべさんまで巻き込んでしまって」

 少しの間をおいて、その態勢のまま唯依ゆより話を続ける。

「それにしても――なんで、あの時言わなかったんだい?僕が『魔法少女』であると。知っているんだろ?」

 にこやかにほほ笑む唯依ゆより。すざくの背中にまるで氷塊が走り抜けるような衝撃を受ける。

「見たんだろ。屋根裏部屋の出来事を。僕が異形のものとコンタクトを取っていた、そして僕自身が人間ならざる風体をしていたことを――」

 じっとすざくの目を自分の透き通った眼で見つめる唯依ゆより

 すざくは震えながらも、その目をそらさずに声を絞り出そうとする。

「......殺してな......い」

「......?」

 あまりの小さな声に首を唯依ゆよりはかしげる。

「......葦原さんは殺していない。あの夜、間違いなく部屋にいたから」

 ほう、と顎に指をやり唯依ゆよりはうなずく。

「僕が魔法少女だったとしても、僕が無実であると信じるのかい?」

「それは......」

 そしてすっと目から涙が零れ落ちた。

 その涙を唯依ゆよりが人差し指でそっとぬぐう。すざくは静かに口を開いた。

「葦原さんは......私の大事な『友達』だから。私は友達が人を殺したなんで信じられない。あの夜、間違いなく葦原さんは部屋にいた。あなたが魔法少女だったとしても、それは事実。私はあなたを信じたい!」

 最初は小声であったが、最後は普段のすざくからは予想もつかないような大きな声が部屋の中を震わせた。

 しばしの沈黙。

 すっと、ベッドから立ち上がり、唯依ゆよりはすざくの真正面へと移動する。

 そして――唯依ゆよりはそっとすざくの両手を握りしめた――

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