第10話 魔法少女裁判

「『魔法少女裁判』を開きたいと思います」

 全生徒に向け、季代としよそう呼びかける。

 全生徒が並ぶ講堂。プロイセンの王宮に擬されたその講堂の壁や天井には、季代としよの麗しい声が響き渡った。

 あの事件から数日、緊急の全校集会が開かれる。主催は学校長ではなく『ヴィヴォンヌ集会』によるものだった。

「数日にわたる捜査の結果、外からの侵入は皆無ということがわかりました。ならば――」

 少しの沈黙の後に、季代としよは再び演説を始める。それを無表情で見つめる教員たち。ヴィヴォンヌ集会会長代理には、教員たちをも黙らせるほどの権力があった。

「この校内の生徒ということになります。しかし、ここはやんごとなき身分の子女のみが集う女学校。官憲とはいえ、男性によってこの学校が踏み荒らされるのは忍び難いことです。よって、許可を取り付けました。我々生徒によって真犯人である『魔法少女』を見つけ出し、裁きの鉄槌を下すと!」

 ざわざわと響き渡る声。あまりのことに、言葉を失い気が遠くなる生徒もいた。

「魔法少女裁判――古の作法にのっとり、だれが魔法少女かをはっきり――」

「意義あり」

 抑え気味ではあるが、凛とした声が季代としよの朗々たる演説を遮る。

 すざくは自分の隣の席を見る。そこには右手を挙手して、すっくと立ちあがる唯依ゆよりの姿があった。

「失礼ですよ!」

 そう進行役の生徒が注意する。それを季代としよは逆に手で制し、じっと唯依ゆよりの方を見つめる。

「いいでしょう。我が学園も、原内閣にならい、そろそろ民主主義とやらを導入する頃合いでしょうから。意見を表明する権利。聞きましょう。四年生生徒葦原唯依あしはらゆよりさま」

 そう赤い扇子で唯一立っている唯依ゆより季代としよはさししめす。それが発言許可のサインであった。

 唯依ゆよりはゆっくりと話し始める。

「会長代理は外部の侵入はないといったが――」

 ごくりと唾をのむすざく。

「犯人が『魔法少女』であるとすれば、高い塀も、格子窓も造作のないことでは

?むしろ侵入した形跡がないことが、外部の『魔法少女』の犯罪であることを示しているのでは」

 ざわざわと再び場がざわめく。

 教員の一人が立ち上がり、何か声を発しようとするがそれを季代としよは扇子で押しとどめる。

「なるほど、それもひとつの味方ですわね。今様の探偵小説さながら、浪漫あふれる推理でございます」

 意にも介さないように、そう季代としよは切り返す。

「さらに言えば、最近の探偵小説ではこのようなことをおっしゃってよ。『探偵の提示した事実を否定する者が真実の犯人』であると。唯依ゆより生徒、墓穴を掘ってしまったようですね」

「ちがいます!」

 それは唯依ゆよりの声でも、季代としよの声でもなかった。

 それは――すざくの大きな声。

 生徒の視線がすべて彼女に注がれる。

「葦原さんは、殺してはいません!その日の夜、ずっと部屋にいました!私はそのことを覚えています!」

 無言のまま、そんなすざくを見つめる唯依ゆより。一方、笑みを漏らしながら季代としよは口を開いた。

「そういった様々なことをはっきりさせるのが、『裁判』です。古式のひそみに倣い、『魔法少女裁判』を開廷します。裁判長は私、異存はありませんわね?」

 教員の側を見下ろす季代としよ。生徒の意見に否はない。

 もう一度微笑む季代としよ

 じっと震えるすざくを唯依ゆよりは、ただ見つめていた――

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