第9話 屋根裏部屋の唯依

 生徒殺害の捜査は続いたが、まったく進展が見られないことはすざくの目にも明らかであった。学校内で目立つ、捜査員の様子がだんだんと憔悴しきっていく。そうかと思うと、怒鳴り声を上げる。それは明らかに捜査員の焦りを表すものだったから。

 もう一つ、すざくには気になることがあった。

 きまって深夜、同室の唯依ゆよりの姿が消えるのである。最初はトイレかと思ったが、いくら待っても帰ってくる気配はない。朝目が覚めると、自分よりも早く朝支度をしている唯依ゆよりの様子を認めることができるのだった。

 明らかに唯依ゆよりは長時間外出している。

 この寮は、基本寮の外への無断外出を禁止している。深夜ともなればそれこそ論外である。また寮内においても、舎監の巡回などがあるはずだ。

 すざくの頭には初めて出会った時の、唯依ゆよりの様子がよみがえる。あの手に宿した光はなんであったのか。

 今回の殺人事件を会長代理の季代としよは『魔法少女』のせいと明言した。

 魔法少女。古のまがまがしい存在。その不思議な力は常人の想像のはるかに上を行くらしい。

 横に何度も首を振るすざく。

 自分のようなとりえのない同室者に、あれほど優秀な人物が仲良くしてくれる。そんな唯依ゆよりが魔法少女であるはずが――



 次の日の夜、唯依ゆよりは再び部屋を抜け出した。寝たふりをしてそれをやり過ごすすざく。廊下の足音が遠のくのを確認してベッドからすっと身を起こす。

 ガウンを体に巻いて、部屋を出るすざく。自分の足音を殺して、暗闇から鳴る唯依ゆよりの足音と気配を注意しながら追いかけていった。

 階段を上り、そして屋根裏へと至る。その部屋はカギがかけているはずだったが、なぜか開錠されていた。

 暗い部屋。身をかがめて物陰からこっそりその部屋の様子を探ろうと、目をこするすざく。

 天窓が開いているらしい。満月の明かりがその中にスポットライトのように、一角を照らす。

 その月の光を両の手を開きながら浴びているのは――唯依ゆよりの姿であった。

 すざくはおもわずため息を漏らす。

 月の光に照らされた唯依ゆよりは、美しくそして神々しくもあった。天を仰ぐその姿は、まるで彫刻のようにさえ見えた。

 しかし、すざくはあることに気づく。

 それは唯依ゆよりの髪。特徴的なショートカットが、なぜか長く伸び、床にまでその髪があふれているようにも見えたからだ。

 ――どのくらい時間がたっただろうか。

 隠れたまま、眠気に襲われ始めたころにすざくはある光景に目を覚ます。

 天窓からゆっくりと入ってくる黒い影。

 鳥のようではあるが、まったく羽ばたかずに空中をすべるようにして降り立つ。

 そして、唯依ゆよりの右腕にとまると、唯依ゆよりの顔にその身を擦らせる。

 すざくは気づく。その黒い鳥の足が――明らかに『三本』あることに。

 異形の鳥。そして唯依ゆよりの変化。

 すざくは、一つの答えを導きだそうとしていた。

 それは唯依ゆよりが得体のしれない存在――『魔法少女』であるかもしれないという予感を――

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