第8話 魔法少女の歴史

『魔法少女とは』

 国家の成立時、必ず動乱を経験するものである。その時、登場するのが『魔法少女』である。『誦戦記』の魔法にて、過去の武器や戦闘を具現化する力を持ち、その働きは鬼神のごとくどんな荒くれの武者も恐れおののく存在であった。

 その歴史を紐解けば古代、まだ大和王権が盤石ならしめなかった頃、動乱のときに活躍した少女たちの姿が伝わっている。彼女ら『魔法少女』の存在はあくまでも非公式とされ、その状況においては政権側、反乱側いずれの陣営にも見ることができた。魔法少女同士が相争うこともあり、その際には大群同士がにらみ合い、魔法少女同士の一騎打ちを見守ることもあったらしい。

 江戸時代に入り、太平の世になってからはその存在は過去のものとなりなりをひそめるものの、音曲歌舞伎などで度々、題材とされその活躍は人々の記憶に新しいものであった。

 しかし、明治の一新以後『魔法少女』は前時代的な遺物、物語上のフィクションとして取り扱われることが多くなる。現在、その存在を知るものはいない。(『続改日本史読解』太田南残著、明治三十二年初版)


 すざくは本を閉じる。学校の図書館で借りてきた本。『魔法少女』に関する一文であった。

『これは魔法少女の仕業に違いありません』

 忘れもしない、季代としよの言葉。

『そんな、この科学の時代にそんな時代錯誤な』

 大人たちのざわめき。無理もない。魔法少女は歌舞伎や講談の題材であって、この大正の世には似つかわしくない存在であった。

『ならば、あの状況をどう考えますか?深い刀傷がいくつも体について、その亡骸ははしごを使っても不可能なほど高いシャンデリヤの上にかけられていた。そのような太刀筋を操る手練の容疑者がいて?そして、そのような人物が、この学校内の寮の礼拝所に怪しまれずに一晩で足場を作ったとでも?』

 理路整然とした季代としよの説明に、内務省の捜査官たちは言葉を失う。

 季代としよの家である嬉川家は内務省との関係も深い。そういった意味でも、彼らは一助学生である季代としよに反論すらできなかったのである。

 本の表紙をまじまじと見つめるすざく。

 魔法少女のことは聞いたことがあった。

『悪いことをすると、魔法少女が来るよ』

『魔法少女にさらわれるから、早く返ってくるように』

 子供に向けても、そのような脅しがよくされた記憶があった。絵本に書かれた魔法少女はまるで鬼のような形相で、鎧をまとっている印象が強い。

 あくまでも伝説であり、言い伝えでありそしてフィクション上の存在。

 そのような存在である魔法少女を、会長代理である季代(としよ)が、この事件の犯人として名指しした。内務省の捜査官を前に、重みのある存在として。

 はあ、とため息をつくすざく。

 大変な事に巻き込まれたという心配――そして――

 傍らを見ると、いつもと変わらず本のページをたぐる唯依(ゆより)の姿。

 すざくは覚えていた。唯依ゆよりと初めてあったときのことを。

 部屋の前で、手に光をともしていたあのときのことを――


 

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