第21話 魔法術『誦祭記』発動ス

 背中に黒い羽を背負う季代としよ。赤い光が煙のように、その体にまとわりつく。

 その風貌――まるで巫女のような装束に胸当てと鎧を身につけ、何本もの刀をその腰に帯びていた。

 その顔も確かに季代としよのものではあったが、まるで濃い化粧を施したような感じであった。

「『動乱の魔法少女』――嬉河季代うれかわとしよ、見参!」

 両手で刀を抜き、それを天上に掲げる。

「幕末の京都で多くの維新志士の血を吸い上げた名刀の数々、この切れ味にまさるものはなし!」

 そう言いながら、目の前の机を一閃する。瞬時に粉と化し、原子に還元される。

「ここではちと、狭うございますね。『外』に――参りましょう」

 その言葉が終わらないうちに、季代としよは姿を消す。

 頷く唯依ゆより

「ちょっと、待っててくれるね」

 そう言いながら、 唯依ゆよりはそっとすざくの髪を撫でる。

 静かにうなずくすざく。検事やさかも同じようにうなずいた。



 下に見える女学校。まわりは鬱蒼とした森に囲まれていた。

 腕を組み、空中でその様子を眺める季代としよ

 それを校舎の屋上から見上げる唯依ゆよりとやさか。

 意を決したように二人は目を閉じる。

 琴の調べのように、心地よいメロディを唱える二人。ゆっくりと青と黄色の光が二人を包み、そして激しく回転する。

 その光の渦がゆっくりと、解けていく。

 その中に現れるのは――季代としよと同じように背に羽をつけた二人の少女。身には鎧をまとい、独特の化粧をした唯依ゆよりとやさかの姿であった。

「『安寧の魔法少女』、葦原唯依あしはらゆより見参」

「同じく、眞鏡やさか見参」

 そう言い終わると抜刀し、宙に舞う。

 それを下に見る季代としよ。一呼吸整えると、体制を整え急降下する。

 それは瞬間の出来事であった。

 三人が空中で激突し、刀のぶつかり合う音と光がこだまする。

 それを屋上から見守るすざく。それを守るように伊集中佐と副官の姿があった。

「......唯依ゆより......」

 懇願するようなすざくのつぶやき。その時、唯依ゆよりの声が聞こえたように感じた。

《安心して》

 という声を。

「軽い、かるすぎる太刀筋よ!」

 刀を交えながら季代としよはそう、繰り返す。

「わが刀はあの幕末に人斬りに勤しんだ攘夷の志士たちの『戦記たたかいざま』を刻み込んでいる。ぬしらのなまくらとは格が違うのよ!」

 大振りして、二人を退ける季代としよ

 さすがの二人も距離をとり、構え直す。

 それを見ていた季代としよは刀を下げ、目を閉じてなにやら静かに唱え始める。

 魔法術『誦祭記』の能力――それこそがこの、魔法少女の魔法の中で最も強力なものであった――

 

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