第20話 変身

「魔法少女にも二つ種類がある」

 唯依ゆよりはすざくにそう話しかける。

「社会の変革期に現れて、動乱に火をつけ混沌とした社会を目指す『動乱の魔法少女』。彼女らはその戦いがより激しくなるように暗躍する。一方それを良しとしないの魔法少女が『安寧あんねいの魔法少女』。彼女らは社会の変革が最低限の出血でおさまるように、その力を尽くす。眼の前にいる魔法少女――嬉河季代うれかわとしよは前者であり、僕は――」

 当然、『安寧の魔法少女』であるとすざくは心のなかでつぶやいた。

「戊辰戦争ではやってくれたわね。わらわが日本をバラバラにしようとした――あの内戦をさらに混沌とさせ、北海道や東北に独立政権を作ろうと努力したのにもかかわらず――ぬしら『安寧の魔法少女』がわれらにあだなして新政府の味方をしたせいで、あっという間にあの内戦は終わってしまった。わらわの思い通りに行けば今頃この国は分裂し、欧州列強の植民地となり混沌がいまだに続いていただろうに」

「残念でしたね。野望、ならずですね。今も昔も」

 検事やさかの皮肉に、ちっと季代としよは舌打ちをする。先程までの高貴さはどこかに消えてしまったかのように。

「ふん、まだ終わったわけではない。わらわの魔法少女の不死の命がある限り、何度でもやってみせようぞ」

 検事やさかは太刀を手にかつての主君、季代としよに飛びかかる。

 赤い光が壁のように季代としよの前に展開し、太刀の刀身を受け止める。

 激しい光と音が部屋の中に響き渡る。

「お互い、魔法少女らしく魔法術で雌雄を決しようではないか」

 扇を軽くかざすと、太刀ごと検事やさかを赤い光が吹き飛ばす。

「よろしいわ。同じ魔法少女同士、雌雄を決するとしましょう。『本気」で。それにここでは狭すぎる。あるべき姿になりましょうよ。『魔法少女』の姿に」

 そういいながら季代としよはすっと立ち上がる。そして目を閉じて、顔を天井に向ける。

 声とも言えない小さな音。それはまるで機械音の奏でるミュージックのように、部屋に響き渡る。

 赤い光の帯が何本も季代としよの体を包み込む。

 あまりのまばゆさに、すざくは思わず腕で目を覆う。

 次の瞬間、大きな音とともに衝撃がすざくを襲った。

「えええ......!」

 果てしない風圧。唯依ゆよりが支えてくれなければ、ふっとばされていたかもしれない。

 部屋は一変する。書類やらなにやらが散乱し、机なども放射状に押し倒されていた。

 ようやく見えるようになったすざくの視覚に飛び込んできたのは――空中に浮かぶ、背に羽の生えた『魔法少女』の姿であった。

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