第22話 幕末の動乱

 青く澄みきった空がゆっくりと黒くなり始める。

 いまだ昼を過ぎたばかりなのに、それはまるで日食のようにあたりを暗く塗り染めていく。

 季代としよはさらに、なにやら言葉を唱える。

 段々と周りの風景が変化していく。

 足元には土の路地が見え、横には白い壁がその姿を現していく。

 軒を連ねる、屋敷がいくつもその形をあらわにして視覚だけではなく聴覚にも変化が訪れる。

「京都......幕末の路地か」

 魔法術『誦祭記』の威力。かつて戦った場を現在に再現し、その時に使用された武器の威力をも再現する。魔法少女のみが用いることのできる魔法である。

「懐かしいですね」

 そう、やさかは唯依ゆよりに告げる。

 幕末の動乱は四〇年以上前の話である。この少女たちは、その幕末の動乱を経験してきたというのか。

 季代としよが跳ねる。

 両手の刀を振りかざし、瞬時に距離を詰める。

 それを見切る唯依ゆより

 季代としよの刀が空を切る。暗闇が裂ける。まるで暗幕でも切るように。

「人斬りの太刀筋、そうそう容易に避けられるものではないぞ」

 そう言いながら更に近づく、季代としよ

 やさかがすっと前に出て、刀の柄に手をかけた。

 口元がゆっくりと動く。それは魔法術『誦祭記』の発動。桜の花がやさかの前に舞い、浅葱色の反物が光線のようにほとばしる。だんだら模様のその布は、刀に巻き付き、そして一体化する。

「会津中将が御預り、「新選組」不定の攘夷浪人を成敗!」

 そう言いながらやさかは抜刀する。

 季代としよの剣筋を面とするならば、やさかのそれは一本の線であった。

 まるで槍のように季代としよの胴を狙うその刀さばき。さしもの季代としよも後ずさる。

「沖田の刀筋か。全く忌々しいことだ」

 ぺっ、とつばを吐き出しながらそう季代としよはつぶやく。

「われわれ魔法少女は、戦乱の中『心が通じ合った』人物やそのものが携帯する武器、そして背負っているものを自らの力にすることができる。それが魔法術

『誦祭記』!史実と同じく、新選組の刀の錆になれ!『動乱の魔法処女』季代としよ!」

 今度は力強い剣筋が季代としよを襲う。天然理心流の荒々しい虎徹の一撃が、季代としよに振りかざされる。

 激しい金属音と、光。

 やさかは手応えを感じつつも、しかし宙に刀は浮いたままであった。

 みぞおちに激しい衝撃。そしてまるで猿の叫び声のような音とともに後ろに激しく吹き飛ばされる。

 鎧を一部破損しつつも、肩に刀を載せ季代としよは平然として言い放つ。

「薩摩示現流――見せてあげましょうぞ。その破壊力を!」

 戦いはまだ、始まったばかりであった――

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