第26話 二人のランチ

「失礼。貴官の所属及び階級を伺いたい」

 上野動物園を出た二人を待ち構えていたように、軍服の男が立ちふさがる。

 腕には憲兵という腕章。唯依ゆよりはため息交じりに、返答する。

「所属は、ない。陸軍参謀本部直属葦原唯依特佐である。こういった方がいいかな。『魔法少女』である」

 最後の一言を聞いてざわつく憲兵。

 はっ、と我に戻り必要以上に形式張った敬礼を返す。

 それに構わずすざくの手を引いて、先をゆく唯依ゆより。後ろからは、まだざわめきが聞こえた。

「魔法少女は」

 唯依ゆよりは説明する。

「軍では結構有名でね。少なくとも名前だけは。シベリア出兵でも結構、参加しているからね」

 それ以上はすざくは聞くことはなかった。いずれ、唯依ゆよりが教えてくれるはず、と根拠のない確信を抱きながら。

「そろそろ、昼過ぎだ。お腹空かないかい?」

 顔を真赤にしながら、すざくは無言でうなずく。お腹空いているの、わかったのかな?という恥ずかしさを隠しながら。

 唯依ゆよりは手慣れた様子で、行きつけのレストランにすざくをエスコートする。

「こ......こ.....は......」

 初めて入る『レストラン』に緊張するすざく。基本、すざくには外食という文化がない。他の家でお呼ばれして食べることはあっても、外で知らない人に混じって飲食をともにするというのは全く、経験したことはなかった。

「最近話題の『洋食』屋だよ。若い人に人気だ」

 そう、見た目は少女の唯依ゆよりが言うのは少し違和感があるが、それ以上にメニューに釘付けになるすざく。

《......!!》

 見たこともない料理の名前がカタカナで並ぶ。達筆な筆によるその名前は、すざくの心を躍らせるのに十分なものであった。

「ポークカツレットなんかいいかな?」

 嫌な訳はない。唯依ゆよりの申し出に一も二もなく賛同する。

 女給を呼び、オーダーする唯依ゆより。少女の声に驚かないところを見ると、どうやら見知った店らしいことが伺えた。

 もじもじしながら、すざくは食事を待つ。数十分後。テーブルはできたての料理に溢れていた。

「えぇ......」

 何とも言えないすざくのため息。どれも見たことない料理ばかりである。

 そっと、ポークカツレットにフォークを伸ばすすざく。衣の上にはたっぷりとソースが掛けられている。

 口に含む。

 今までにない味が口の中に広がる。

「......!」

 声が出ない。涙ま出そうな感じだった。

 聖アリギエーリ高等女学校の寮で出される食事は和食か、『本場』の西洋料理である。将来の海外生活に備えるための配慮であった。

 眼の前の『洋食』はそのいずれとも違っていた。

 こってりとした肉の味でありながら、和風の雰囲気も感じさせる――そして使うのはフォークとナイフ。パンではなくライスがまた――

「気に入った?」

 唯依ゆよりの言葉に、ただうなずくばかりのすざくであった。

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