第2章 新たなる魔法少女たち
第25話 新たなる始まり
桜はまだ、遠い。
まだまだ寒い風が吹く、二月。その日は珍しく春をうかがわせるような陽気の一日であった。
かつて寛永寺があった上野には、明治の世に公園が作られていた。戊辰戦争――彰義隊と新政府軍の戦いにより焼け野原となったそこには、博物館や動物園などが作られ人々の憩いの場所となっていた。
この日も休日ということもあり、人手が多い。
いまだ和服姿の男女も多いが、流石に大正の時流に乗ってか洋装の出で立ちをするものも多く見かけられるようになってきた。
男女のいわゆる『ペア』の姿が見えるのも、世が平穏なればこその風景であろう。
当時は農商務省博物局の動物園であった上野動物公園。カバの檻の前に、二人の男女が並ぶ。
一人はいかにも大正の女学生の出で立ちといったような、上は和服に下は袴の少女が一人。ややくすんだくせのある髪型の少女は初めて見るカバの姿に、目を輝かせていた。
一方もうひとりの方は、帝国陸軍の制服をまとい、そのすざくの様子を眺めている。
「すざく、カバは初めてか?」
はい、とやや震えながらすざくがそれに答える。軍服の男の声も少女のそれであった。
関係者には内務省や軍からの箝口令がひかれ、それも不可能なものは内々に転校や退学を余儀なくされたからである。
一方、
先日の騒動が嘘のように、平和な日々が続く聖アリギエーリ高等女学校。二月に入り、長期の休みが始まる。そんな中で
「一緒に、遊びに行かないか。東京見物をしてみたい」
と。費用は
まったく詫びられる覚えもないが、すざくはそれを快諾する。
実家に帰っても、誰もいない。両親は早くに亡くなっていた。財産はある程度はあるが、自宅には管理人がいる程度である。
実家で時間を過ごすくらいなら――とすざくは
「でも......女学生二人で遊ぶっていうのは......ひと目も多いし......」
世間体、というやつだろうか。この時代、まだ女性の地位は低くまして学生が東京を見物するなど一般的ではない。
にこっと
ドアを出ると、数分で戻ってくる
「僕もとりあえず軍人の身分は持っているからね。嘘じゃない。これなら怪しまれずにすむ」
「でも......軍人さんが......女の子を連れているのは......」
「妹とでも言えばいいさ」
そう言いながら、
初めての『デート』、という言葉をすざくは何度も心のなかで繰り返していた――
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