第51話 龍の咆哮

 激しい衝撃。まるでブランコに立っているように、甲板が大きく波打つ。光の洪水のあとには真っ黒な煙が圧力を持って、すざくたちにおそかかる。

 すざくを守るように覆いかぶさる唯依ゆより。背中にはまるで羽のような青い光が伸び、まるでドームのように二人を包む。

 しばしの時間が流れる。何かが燃える音。そして炎の明るさがあたりを彩っていた。

 甲板はやや傾き、様々なところが損傷していた。

 はっとしてすざくは空を見つめる。

 そこには――傷ついたオフィーリアの姿があった。顔には幾筋も血のあとがつたい、そのドレスもほつれが目立つ。しかし、彼女はゆるぎもせずにじっと敵――カティンカたちの報を凝視していた。

 爆音。

 一瞬すざくは焦るが、それは自分の船でないことにすぐ気がつく。眼の前の敵艦が傾斜し、大きな爆炎を上げながら波間にたゆたっていたのだ。

 ぱちぱちという乾いた拍手が聞こえる。それはカティンカの声とともに響き渡る。

「流石は七つの海を支配する大英帝国の海軍。『魔法力』でシールドを張ると同時に、主砲を斉射するとは」

 そう言いながらカティンカはあたりを見回す。

「とはいえ、満身創痍のようだ。まだこちらには無傷の旗艦『クニャージ=スヴォーロフ』がある。そちらはもう戦闘不能だろうねぇ。エフ――」

 隣の魔法少女に目配せするカティンカ。頷きもせずにエフは旗艦の主砲をゆっくりとオフィーリアに向けて、最後のとどめを――

 その時。

 あたりにまばゆいばかりの光が弾ける。それはまるで稲妻のように。

 雲が、そして風がまるで嵐のようにあたりを薙ぎ払う。

 よろめくエフ。さすがのカティンカも手のひらで目の前を隠す。

「......!!」

 その時にカティンカの眼前に迫る光の影。それは異形の化け物のように見えた。

 それは龍。それが口を大開きしてこちらを飲み込もうとしていたのだ。

 思わず身をかわすカティンカ。しかし隣のエフは避けるいとまもない。

 龍の口からまるで炎のように何かが吐き出される。

 矢――にしては太いその円筒の棒はエフの胸を貫通し、旗艦『クニャージ=スヴォーロフ』の艦橋に突き刺さる。

 エフが崩れ落ち、落下する。それと同時に円筒物が光をはなち爆発する。

 その威力――戦艦の主砲でもこれまでの破壊力爆発力はないような凄まじさである。

 まるで津波のように衝撃波が『パークス=ブリタニア』を襲う。

 何度も、そして何度も。

 その狂騒の宴が終わりを告げたのは数分後のことであった。

 波間には鉄の残骸が浮かび、満身創痍とはいえ『パークス=ブリタニア』だけがその姿を留めていた。

 唯依ゆよりは虚空をにらみつける。そこにはすでにカティンカの姿は存在しなかった。オフィーリアもまた同じように空中で闇を見つめていた。

 何が起こったかは――分からなかった。

 ただ一つ言えること、それはなんとか『生き延びることができた』という実感だけであった――

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