第37話 ポールドニツァの眷属たち

 制服姿のままのユーリは狙撃銃を両手で抱えながら、じっと三人の方を伺う。

 そっと手を差し出す唯依。それに対して、ユーリはボルトアクションを引き、銃口を唯依たちの方に向ける。

「大丈夫。助けに来たんだよ」

 すざくがそう小さな声でさとす。

 銃口が震える。

 ゆっくりと、そしてゆっくりと唯依がユーリの側に近づく。

 柔らかく、大きなユーリの体を抱きしめる唯依。がちゃ、っと床に銃が転がる音が響き渡る。

 唯依にすがりつくユーリ。すすり泣く声も聞こえる。

「......ロシア......みんな......殺される......」

 嗚咽の合間に聞こえるユーリの声。

「仲間がか?」

「赤軍......皆殺しにする。パルチザン。年寄りも赤子もみんな......殺す」

 ニコライエフスクの記事を思い出す唯依。多分あれが引き金となって、ロシアに帰ることを思い立ったのであろう。

 貨物室は暗く、そして冷たい。

「僕に、この船に乗って日本まで来た理由は何なんだい?」

 唯依の質問に、ユーリは唯依を見上げながら答える。

「唯依に......助けて.....もらう......一人では......無理.....」

「唯依さまに助けと求めにきた、というわけですか」

 やさかが腕を組みながら、そう分析する。それをすぐ言葉で伝えられないことが、ユーリの能力の限界を示していた。

「僕の助けが必要、か」

 難しそうな顔をして、ユーリをそっと撫でる唯依。

「魔法少女は一個大隊に相当する戦力だ。ましてユーリは――その気になれば騎兵連隊を足止めできるほどの実力の持ち主。それが、僕に助けを求めるというのは」

「敵も『魔法少女』というわけですね」

 うん、とやさかの声にうなずく唯依。

「赤軍――ロシア革命軍が魔法少女を使っているとは初耳だ。共産主義と我々魔法少女は相性が悪いはずだが」

 近代的な理想社会を目指す科学的社会主義と、古の魔法を操る不死の少女。たしかに正反対の存在とも言えた。

「連中にとって見ればわれわれはラスプーチンの一党か、ポールドニツァの化身でしょうからね」

「ポールドニツァ?」

 すざくがやさかに質問する。

「すざくさま、ポールドニツァとはロシアの民話に出てくる妖怪です。暑い中仕事をしている納付を、美しい少女が手に持ったかまで命を刈りとってしまうという――」

 ひえっとすざくは声を上げる。

「まあ、世界各地で魔法少女の認識なんてそんなもんさ。だいたい、子供が悪いことをしていると『魔法少女が来るよ』と親が言うのは世界共通らしいしな」

 そういいながらユーリを抱きしめながら立ち上がる唯依。

 その時、やさかは背中に感じる。それは新たなる『魔法少女』の存在を――

 

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