第30話 ユーリの過去

 次の日の朝、すざくは床の上で目が覚める。

 隣には、唯依ゆよりにすがるようにくっついて寝ているユーリの姿。もっとも、一回り大きいユーリは、逆に唯依ゆよりを抱き抱えているようにも見えた。

 くすっとすざくは笑う。昨日の剣呑な一件が、まるで夢のようにも思えた。

 洗面所からすざくが戻ると、二人は目を覚ましていた。

 ぼおっとして、立ち尽くすユーリ。どう見ても大人の体型だ。胸も。背も。

「ユーリ、しばらくこの寮に住むといい」

 唯依ゆよりの言葉にちょっと、戸惑うユーリ。流石に昨日のことを反省しているのだろうか。

 少しの沈黙の後、小さくうなずく。

 唯依ゆよりの行動は素早い。学校の理事室に乗り込むと、いずこかに電話をかける。午後には、学園の事務がユーリの入学手続きを済ませていた。『魔法少女』として軍に奉職している唯依ゆよりの権力の大きさを感じられる出来事である。

「ユーリ。やさかと同じ部屋にしてもらった。そっちに行こう」

 唯依ゆよりの言葉に首を振るユーリ。ぎゅっと、唯依ゆよりの袖をつかんではなさない。唯依ゆよりはちらっとすざくの方を見やる。にこっとうなずくすざく。簡易のベッドが運ばれ、三人部屋が出来上がる。

 ユーリの制服は後日届くということで、とりあえず部屋着だけが用意される。

「いくらなんでも、ちょっと大きすぎたか......」

 珍しく唯依ゆよりがちょっとしくじった感じでつぶやく。しかしユーリは先程風呂に入り、ごきげんなふうで、裾の長いパジャマを楽しそうにいじくっている。

「今日はつかれたな」

 一日ぶりにベッドに横になる三人。ユーリはもう、眠りについたようだった。

 なぜか眠れないすざく。そんなすざくを察してか、唯依ゆよりが声をかける。

「手間をかけるね」

「そんなこと......」

「すこし、ユーリの話をしようか。昨日は突然打たれたので驚いたと思うけど」

 無言でうなずくすざく。

「ユーリ、ユーリヤ=スヴォーロフは魔法少女としてロシアの皇帝ロマノフ家に仕えていた子でね――」

 まるで物語を語るような唯依ゆよりの口調に、すざくはただ心を惹かれる。

「彼女の魔法術『誦祭記』は強力で、どんなに小さい狙撃人物も一撃で仕留めるし、どんなに大きな構造物でも吹っ飛ばす万能の力を持っている」

 すざくは昨日のことを思い出す。もし本当に唯依ゆよりを殺す気であれば.....。首を振るすざく。さらに唯依ゆよりは続ける。

「そして、あの出来事が起こる。そう『ロシア革命』さ。それが彼女の運命を大きく変えたんだ――」

 唯依ゆよりの口から語られるユーリの過去の話。

 すざくはただ、聞き入るばかりであった。

 

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