第31話 シベリア出兵と出会いと

 ユーリがロシア皇帝ロマノフ家に仕えたのはいつの頃だったろうか。

 魔法少女が世界の皇帝や国王に仕えて、その力を発揮していたのは珍しいことではない。中には直接『主君』として、魔法少女と契約を交わした君公も数に暇がない。

 近代ロシア帝国の歴史とともに、ユーリヤ=スヴォーロフは存在した。

 政敵を倒す狙撃手スナーイピェルとして、また戦争の要となる会戦の決定的な火力としてユーリはロシア帝国に仕えていたのだ。

 しかし、彼女の力を持ってしても日露戦争の劣勢は覆しようもない。

 その後に続く、第一世界大戦の総力戦の中で一戦術軍事力に過ぎないユーリは、ロシア帝国の衰退に歯止めをきかせることはできなかった。

 そしてその時がやってくる。

 一九一七年、ユリウス暦二月革命に続き十月革命が勃発する。

 レーニンを指導者とするボリシェヴィキが政権を握り、さらに革命を推進する。

 翌年、すでに退位していた最後のロシア皇帝とその家族はエカテリンブルクにて虐殺されることとなる。

 ユーリは常に、皇帝のために働いていた。

 何人ものボリシェヴィキの幹部を暗殺し、赤軍を足止めした。皇帝を救うために、できる限りのことをユーリは行った。

 しかし――革命ロシアの側にも存在したのである。『魔法少女』が。

 唯依ゆよりがユーリと出会ったのはその頃の話である。

「シベリア出兵――今考えてみてもあれはひどい戦いだった。僕も、参加したよ。軍の命令で」

 暗い部屋に、小さなランプが灯る。薄暗く、唯依ゆよりの顔を照らす明かり。それをじっと見つめ、話に聞き入るすざくであった。

「白軍が壊滅した町を再占領した時――その時、我軍は白軍の援軍に出ていたのだが――何人もの部下が狙撃されるという事件が起きた。多分『魔法少女』の仕業だろうと。そうだった。そこには全身傷まみれになり、われを失っていたユーリがいた。敵も味方もお構いなしだった。気持ちを落ち着けさせるのにかなり時間がかかったな。よっぽど辛い経験をしたのだろうね」

 すうすうと寝息を立てるユーリ。たまに、ロシア語でなにやら寝言を静かに語る。

 「その後、僕は日本に帰還となった。ユーリのことは心配だったけど、連れて帰るわけにも行かない。ロシアのある町の教会に因果を含めて、世話をお願いしたんだけど――なんで日本に――」

 唯依ゆよりはそこで言葉を区切り、じっとランプの炎を見つめる。

 すざくはそっとユーリの白銀色の髪をなでた。まるでそれは狐の毛のように細く、そして柔らかいものであった――

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