第28話 狙われる唯依

 息を切らしながら、ゆっくりと階段をのぼる。

 上野公園にはいくつもの博物館が存在する。いまだ高層建築が少ない中で、ひときわ目立つ建物である。

 唯依ゆいはそのひとつに目をつけた。感じる『魔法少女』の波動――先程、自分たちを狙った弾丸の方向からも、この博物館の位置は合致していた。

 屋上へ向かう階段。

 すざくを何処かに匿おうと思ったものの、彼女がそれを許さない。

 まあ、目の届くところに居てくれたほうが安全か、と唯依ゆいは軍帽を深くかぶり直しながら、階段をのぼる。

 屋上へと続く階段。

 間違いなく、彼女はそこにいるはずだった。

 唯依ゆいを狙う、外国の『魔法少女』が。

 ついに屋上の踊り場に到達すると、目の前には外へつながる鉄の扉が現れる。鍵――を確認すると、なにやら床に鎖の輪が散乱していた。どうやら重か何かで、施錠を壊したらしい。

 そっと、扉を押し開ける。

 まだ寒い風が、びゅうと二人に押しかかる。

 それに逆らいながら、屋上に出る二人。

 目を凝らすと――はるか彼方の端に、うつ伏せになって何かを構える人の姿が――

 その瞬間、唯依ゆいは右手を上げる。

 激しい音響。金属音ともなんとも言えない音が響き渡る。右手から煙が上がる。その右手は赤い光をまとい、鈍く光っていた。

「ユーリヤ、日本に来ていたのか」

 唯依ゆいは名を呼ぶ。また一発、弾丸が放たれる。それもまた、右手の赤い光に弾かれるように空中に消し飛んだ。

 手に小銃らしきものを持つ人影。服装は――軍服だろうか、なんとも言えないボロボロの衣服をまとった、姿がそこにあった。

 腰のサーベルを唯依ゆいは抜き放つ。

 そのまま突進する、唯依ゆい。人影は弾丸を込めながら、再び発砲する。

 次の瞬間――二人の間に爆発が起こる。思わず目をふさぐすざく。

 煙が舞い、床が軽く振動する。

 そっとすざくは目を開ける。

 そこには変わらない姿の唯依ゆいがこちらに向かって、歩みを進めている姿があった。

 そして両手で何かを抱えていた。そう、それは彼女を狙っていたユーリヤを両手に抱えて。



 『デート』は急な狙撃者によって、終了を迎えた。

 聖アリギエーリ高等女学校の自室の寮の部屋に戻った二人。もう一人の『魔法少女』ユーリヤは唯依ゆいのベッドの上に横たわっていた。外傷は――ない。ただ、静かに寝息を立てているようにも見えた。

「これから、どうするの」

 すざくがどうしたら良いかわからない顔でそう問う。唯依ゆいは無言で考えをめぐらしていた。

 銀色の髪。そして、白い肌。年の頃は二〇歳くらいだろうか。唯依ゆいやすざくよりは一回り大きい体を持った、女性であった。

「医者を――」

 すざくがそう言うと、それを唯依ゆいは遮る。

「魔法少女に医者は必要ない。大丈夫。目が覚めれば、元気になるだろう」

 じっとベッドを見つめるすざく。魔法少女――何度もそのことばを頭の中で繰り返しながら――

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