第45話 イギリスの『魔法少女』

 ディナーを終えた二人は部屋へと戻る。

 軍服のままベッドに横になった#唯依ゆよりは、いつの間にか軽い眠りに落ちているようだった。

 そっとすざくは薄手のガウンをかける。

 すざくはあまり眠たくはない。

 興奮、というのだろうか。すべてがあまりにも規格外すぎる経験で、脳がヒートアップしているようだった。

 船の豪華さ、食事の豪華さ、そして船主のウェストアビン女伯オフィーリアの豪華さ。

(いけない。豪華以外の形容詞が浮かんでこない)

 自分の語彙力の弱さを実感しつつ、頭を少し冷やそうとすざくは考える。

 寝ている#唯依ゆよりをもう一度確認すると、静かに部屋を出るすざく。

 廊下に面している鉄格子のエレベーターに身を任せると、一気に甲板まで駆け上がる。

 ゆっくりと開く鉄格子のドア。

 黒い、そして冷たくも密度の高い潮風がすざくの鼻をくすぐる。

 その甲板は、テラスのような狭い空間であった。夜ということもあり、眼下の大甲板にも人の姿はない。

 ぶるっと震えるすざく。突然冷たい風が、海面から吹き上げてきたようだった。

 ふと、上を見るすざく。そこには――人影が浮遊していた。

「......人?」

 思わず目をこする、すざく。

 人がいるはずはない。そこはなにもない空中であるはずだ。

 目を凝らす、すざく。

 ぼんやりと輪郭が見える。

 燃えるような金色の髪が風に乱れる。その髪の先にはまるで天使のような羽が――それは、そう#唯依ゆよりが持つ羽のような――

(魔法少女!)

 叫びそうになる声を必死で押し止める。

 さらに、驚くべき事実が彼女を襲う。

 空に舞うその少女は――間違いない、先程大食堂で見た『ウェストアビン女伯オフィーリア=アイアランド』にほかならなかった――

 彼女も『魔法少女』――?そんなことを考えながら、見つからないようにかがむすざく。

 オフィーリアはすざくには気付かない風に、水平線のはるか彼方を見つめているようだった。

 すっと人差し指をたてる。金色の光がその周りに回転した。

 その光に、浮かび上がる姿。

 先程のドレスとはまた違った、軍服のような裾の長い衣装をまとうオフィーリア。それは堂々として、まるでこの船の艦長であるようにさえ感じられた。

 目を閉じるオフィーリア。口を動かして、何やら唱えているようにも見えた。

「そこにいるもの」

 すざくは心臓が飛び出しそうになる。かなり離れた距離なのに、オフィーリアの声が聞こえる。それも日本語で。

「さきほど、#唯依ゆよりといた少女であるな。そこから動かぬように。いいものをみせてやろうからに」

 すざくはただうなずくばかりである。

 そして――幕が開くこととなる。オフィーリアの『魔法少女』の劇が――

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