第46話 仮装巡洋戦艦『パークス=ブリタニア』

 漆黒の水面。崖のように切り立った船べりの底にまるで、地獄の口のように真っ黒い平面が波打っている。

 オフィーリアは二度三度、あたりを伺う。目を閉じながら、何かを探すように。

 かっ、と目が開かれる。

 そして右手を高く掲げる。金色の光がほとばしる。

「そこにいたか。ねずみ共」

 突然の轟音が響き渡る。すざくが思わず頭を隠す。

 甲板の一つ――船の後方の右側の甲板が大きく開いたのだ。

 その穴からゆっくりと何やら鉄の塊が姿を現す。歯車の音をきしませながら、ゆっくりとその姿を――

「爆雷である。先の大戦では未だ試験段階であったが――この私の力をもってすれば、十分に兵器として通用する代物だ」

 爆雷、すざくはその言葉を繰り返す。爆弾、のようなものだろうか。しかしなぜ、この平和な航海にそんなものを出してくるのだろうか。

「船主は船を守らねば。いるぞいるぞ、ドイツの残党が。Uボートめらがウヨウヨと」

 オフィーリアがそういった瞬間、ドラム缶のようなものが軽快な音と煙を上げて空中に舞う。

 放物線を描き、闇の中へと消えていくそのドラム缶。着水したのであろうか、しばらく沈黙があたりを支配する。

 轟音。

 すこしの間の後、水しぶきがすざくの額に降り注ぐ。

 Uボート。それは先の大戦で多くの船を沈めたドイツの潜水艦。だとするならば、この豪華客船は――

「仮装巡洋戦艦『パークス=ブリタニア』じゃ。大戦中はもっと多くのUボートを屠ったものよ」

 誇らしげに腕を組んでそう高らかに吟ずるオフィーリア。

「この船はあくまでも豪華客船。軍人はおらぬ。戦闘時、砲撃や測距をする兵に変わりわれの魔法にてこの船を運用する。われ一人の魔法力で、軍艦一隻を完全に運用することができるのだ」

 そう言い終わるかいなや、再び大きな振動が船を襲う。

 黒い塊。それが水面に現れる。

 潜水艦。その砲塔はこちらを向いていた。先程のUボートの連れ、であろうか。近距離のため直接砲撃のために浮上してきたらしい。

「ほう、姿を現すとは重疊。客船相手ならその小口径の艦砲でも沈められるとでも思うたか」

 そう言いながら、すっと左手を掲げる。

 大きな振動。今度は前の甲板が開き、中から銀色の塊が現れる。ゆっくりとそれは旋回し、細い筒を彼方の潜水艦に向けた。

「われの主砲50口径速射砲の餌食となるが良い。仰角はちと足りないが、魔法力によってそれは修正させてもらう」

 大きな光があたりを包む。そして轟音。すざくは思わず耳をふさぐ。

 戦闘はそれで終わった。

 ただ、波間には潜水艦の残骸がたゆたうのみであった――

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