第15話 寮の中の『魔法少女』

「魔法少女は社会の変革期に登場します」

 検事やさかは唯依ゆよりとすざくの二人の前に歩み出ながらそう口火を切る。

 くるっと振り返り、季代としよの方を向き直る、やさか検事。

「古くは壬申の乱の折に近江朝廷側、そして大海人皇子側にも参戦しかの戦いを凄惨ならしめた原因とも古書には伝わっています。平安末期の源平合戦や南北朝の動乱そして戦国の時代を頂点に魔法少女たちはありとあらゆる戦いに身を投じて、歴史にその悪名を残しました」

 それを季代としよはうなずきながら、傾聴する。

「彼らは自分が認めた『主君』を絶対と仰ぎ、その『主君』のために戦います。戦場でその魔法の力をもって敵を屠る姿は、鬼神のごときふるまいであったとされています」

「血に飢えた鬼か。まさに時代の鬼っ子というべきですね」

 季代としよが目を細めながら、扇子で口元を隠してそうつぶやく。

「太平の江戸の御代に入っても、由比正雪の乱においてはその姿が見られます。社会に雌伏しつつも、時代の暗部で暗躍していたことは疑いありません。時、幕末に至り、魔法少女はその動乱の時代を謳歌し活躍したことは記憶にあたらしいところです。しかしーー」

 やさか検事は咳払いをして続ける。

「この科学万能の二〇世紀。欧州大戦に見られるように、戦争は近代的な科学によって勝敗を左右されるものとなりました。一武勇を魔法という前時代的な能力に頼る魔法少女の存在は無用の長物と化し、どの参戦国でも利用するものはいないーーむしろ国際法上のタブーとされるようになったのです。実際、今世紀に魔法少女が話題になることはありませんでした」

 それならなぜ、という言葉が出かかってすざくは口を閉じる。すざくを見抜くようなやさか検事の鋭い視線を感じたからだった。

「この誇るべき寮で、感化し得ない状況が起こっています。それは共産主義を始めとする、過激な新思想を吹き込むものが学内に存在しそして少なくない生徒がそれに影響されているという事実です」

 検事すざくは一冊の本を取り出す。その本の表紙にはドイツ語でタイトルの表記がなされていた。すなわち『資本論』と。

「この国を支配する階層の子女たちが、革命を望むような思想を原書で読みそれを友人に語り聞かせる。歴史を紐解くに、社会の変革は下層からだけではなく、上級の階級から始まる場合が多いのです。フランス革命において最初に革命のリーダーとなったのは貴族フィヤン派のミラボーやラ・ファイエットたちでした」

 本を床に叩きつけ、やさか検事は周りを見回し大きな声で訴える。

「現代の魔法少女はこの聖アリギエーリ高等女学校を次の戦場に選んだのです。革命を起こす発火点として。何も知らない少女をかどわかし、曲折した思想をもって名家の子女を革命のコマにしようとーーそれが、被告である唯依ゆよりの正体であると、私魔法少女審問検事眞鏡まかがみやさかは告発するものであります!」

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