第24話
家に帰ると既に結奈さんが帰宅していた。
「遅くなりすいません。すぐにご飯の支度をしますね。」
俺はそう言ってさっそく夕飯の準備に差し掛かる。
そういえば結奈さんと2人きりというのは随分久しぶりな気がする。
俺は彼女が男性不信だという事を知っているので出来る限り彼女と2人きりにならないように避けてきた。自分と同じ空間にいる時も出来るだけ他の誰かがいるように心がけてきた。けれど今日の場合はどうしても仕方ないので出来るだけ空気に徹しようと思う。
彼女は何故かソワソワしているようだ。やはり男と同じ空間2人きりでいるというのは相当な心労なのだろうか。
「すいません、俺が同じ所にいると落ち着けませんよね。決して何もしないと言っても信じられないでしょうから自分の部屋に入っときます。誰か帰宅されたら再び降りてきます。」
そう伝えた。料理はまだ始めたばかりなのでそのまま放置していても問題ないだろう。
そう伝えると彼女は、
「別に大丈夫。」
とボソッと伝えてきた。ここは彼女の意思を尊重しようと思う。
「わかりました。邪魔であればいつでも伝えてください。」
そう伝えて再び料理を始めた。
暫くして料理が完成する。陽子さんと麗華さんはまだ帰宅していない。
「では自分の部屋に戻らせていただきます。またお二人がご帰宅されれば降りてきます。」
そう伝えて部屋に戻ろうとするが、
「待って。」
と彼女に呼び止められた。何だろうと彼女を伺うが彼女は俯いているため様子はわからない。じっと彼女の様子を観察していると顔を上げて何か話そうとするが再び口を閉じ俯いての繰り返しだった。
彼女が家族である俺なんかのために怖いのを我慢して歩み寄ろうとしているのがわかる。だから俺は
「無理して話しかけなくても大丈夫ですよ。男性が怖いのなら俺のことも怖いでしょう。俺なんかのために怖い思いをする必要はないですよ。」
と気遣い自分の部屋へと向かおうとすると
「待って、お願い。」
と彼女に再び呼び止められてしまった。振り返ると彼女は何かを決意した顔をしていた。
「は、話があるの。そこに座ってくれる。」
声が若干震えている。やはり怖いのだろう。
「無理しなくても大丈夫ですよ。他の誰かが帰ってきてからにしましょう。」
俺は可能な限り優しくそう問いかけるが彼女は首を横に振る。
「ううん、今じゃないとダメなの。お願い。」
彼女はそう言った。ならば俺はその言葉に従うだけだ。
「ではここで聞かさせていただきます。近くによると怖いでしょうから。」
俺はそう言って彼女から離れた位置に陣取った。これで少しでも怖い思いが軽減されるといいが。
「…うん、わかった。」
と若干間があったが納得したようだ。
それにしても彼女から話というのはなんだろう?彼女とは俺の父が亡くなってからほとんど会話をした覚えがない。俺が部屋に引きこもっていたのもあるし、彼女自身男性不信だから話かけてくる事はなかった。事故より前は家族として接することができていたが、今はそう見えない。一般の男として接することになっているので彼女からしたら怖いのだろう。ここを出て行けというのなら速やかに従わさせてもらう。俺はそう決心していたが彼女からの話というのは俺の予想外のものだった。
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