第21話
その後、どうにかして薫さんの顔をあげさせたがだいぶ時間がかかってしまった。何を言っても顔をあげず、ただごめんなさいをくり返すだけだったので、だいぶ苦労し、話だけでも聞く事になった。
「ありがとう、じゃあ聞いてください。
私は貴方のことが大好きだった。貴方しか眼中になかった。でも貴方はそうではなかった。貴方は誰に対しても優しかった。私もその優しさが好きだった。そう思っていた。けれどあの事故の後、貴方が私だけしか見なくなって、私は貴方の優しさを独り占めする心地よさを知ってしまった。貴方が徐々に立ち直っていき、以前のように私以外にも優しくするようになっていって、私は激しく嫉妬した。私は貴方だけしか見ていないのに。貴方はどうして私以外に優しくするのと。そうして不満が蓄積していくうちにあいつに相談をした。
『そんなにあいつに見てもらいたいなら追いかけさせればいいじゃないのか』
そう言われて私はその言葉にのった。のってしまった。その頃の私は嫉妬でおかしくなっていたのかもしれない。そうして私は貴方に冷たく当たる事にした。すると貴方は私しか見なくなっていった。これでまた貴方の優しさを独り占めできると思った。でもまた同じように接すればまた周りに対して優しくするんではないか?貴方は優しいから周りからも好かれていた。もし、私以外を好きになったら?私は怖くなった。それに貴方は優しい分だけ傷つけられてもいた。だから本当に貴方が私しか見ないように仕向けようと思った。私なら貴方を決して傷つけない…のに」
そう言ったきり彼女は黙ってしまった。どうしたんだろうか?
「えっ、あれ、私は何で貴方にそんな事をしたの?確かに嫉妬していたけれどユウがそういう人だって事は知っていたのに。それでも私は傷つけてられても皆んなに優しい貴方が好きだったのに…」
彼女はいきなりブツブツと小声で話し出した。何を言っているのかはわからないが混乱しているようだ。
「どうしましたか?大丈夫ですか。」
と肩を揺するとようやく意識がこっちに向いた。
「あっ、ごめんね。それでどこまで話したっけ。…そうだ、貴方に私しか見ないようにさせようとしたところからだったね。」
彼女の話は続く。一瞬混乱していたようだがあれは何だったんだろう?
「その頃には私はあいつを徐々に信頼していっていた。彼に相談してから何もかもが上手くいっていたから。彼は
『自分と仲良くしているところを見せて彼を更に追いかけさせよう』
と言った。あいつを信じきっていた私は素直にその言葉に従った。そうしてあの日も彼に相談していたの。」
とのことだった。そう語った彼女はいつもの冷たい口調ではなく、あの頃の心安らぐ優しい口調だった。
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