第3話

私には大切な幼馴染がいる。


彼とは小さな時から一緒だった。父子家庭で育った彼はとても心優しく、父親が再婚してからも率先して家事などを手伝い、優しさに溢れた青年だった。家族からも愛され、とても仲が良い家庭だった。あの時までは…


彼の父親が交通事故で亡くなった。唯一の肉親を失い、父親を愛していた家族達は、本心とは裏腹に彼を責め立ててしまった。もちろん、間接的には関わってしまったかもしれないけれど、直接の原因は彼にはない。家族もそんなことは分かっていたが、気が動転してしまったのか、つい彼を責めてしまったようだ。もともと、父親が死んで酷く憔悴してしまっていた彼には、その罵倒は何よりも堪えた。肉親を失っただけでなく、家族と思っていた人達からの容赦のない責め立ては、彼が家族に愛されていなかったと思ってしまうのには余りあった。


家族は、正気に戻ると、罵倒したことを彼に謝った。しかし、その時には何もかもが手遅れだった。結果、家族から愛されていないと思い知った彼は塞ぎ込んでしまった。


私は、その頃には優しい彼のことが大好きだった。だから、家族に罵倒され、弱っていく彼をみているだけなんてことは出来なかった。

そこで、彼の家族と交渉し、今は、家族よりも、私が慰めた方が良いと説得し、任せてもらうことにした。それから私は学校が終わると毎日彼の部屋に向かった。最初の頃は、愛というものが信じられなくなってしまった彼に敬語で話され、とても辛かった。けれど、彼の落ち込んだ顔を見る方が辛かったため、毎日通い詰めた。その甲斐あってか、彼は徐々に立ち直り、私に対しては、昔以上に優しく接してくれるようになった。しかし、部屋から出てきた彼は、彼の家族や、学校の知人などに対して赤の他人のように敬語で話すようになってしまった。彼は、私以外から愛されているということを信じられなくなってしまっていたのだ。


 それから、付き合い始めた私達は、今まで以上に一緒にいることが多くなった。私は、いけないと思いながらも、今の、彼が私に依存している関係が心地よく感じてしまった。


しかし、徐々に彼が立ち直っていく中で、周りも少しずつ、彼の優しさに気づき始めた。そこで私は、嫉妬すると同時に、また、彼が家族のように裏切られて傷つくことがあるのではないかと不安になってしまった。もし、また同じようなことが起こり、彼が責められ、彼の家族のように、今度は私まで拒絶されてしまうのではないかと。

 

そこで、私は考えてしまった。彼がもっと私を好きになり、なおかつ、彼が傷つかないようになる方法はないかと。彼に、今は自覚がないが、彼は心優しいため昔からよくモテていた。そこで彼が周りから愛されている事に気づき、昔のように戻れば、私だけの彼で無くなってしまう。私は、今思えば最悪の方法で彼が私以外に目が行かないようにしようと考えてしまった。


そこで、私は徐々に彼に冷たく当たることにした。それと同時に、彼を孤立させ(周りの悪意から守るためでもあるが)、私にしか意識が向かないように仕向けた。彼は、唯一信じられると感じていた私が徐々に離れていくことに恐怖を感じ、必死にアプローチしてきた。私は、時々彼を甘えさせ、更に依存させていった。


最後の仕上げとして、私は嫉妬心を煽ることにした。

同じバスケ部の田中君に話をして、協力して貰い、彼の目を更に私に向けさせた。

今思えば、これが失敗だった。田中君は、文武両道で、誠実そうな人柄だった。


その日も、ファミレスで、彼とどうすればいいか相談している途中だった。突然意識がぼーとしてしまい、

意識が曖昧な中、彼が更に私に依存してくれると聴いた私は彼についてきてしまった。より彼を喜ばせるようにデートしようなどと、今考えればふざけたことを私は彼のためと信じて手を繋ぐなど実践してしまった。彼とのデートを想定して色々なところを回った。これで更に彼に喜んで貰えると思った。そのまま言葉巧みに彼の為と言われながらホテルに連れ込まれそうになった時、頭の奥で警鐘が鳴った。これ以上はいけないと。私は彼の為とは言え、何をしているのかと。そして腕を離そうとした時に、ユウが目の前にいた。


私は頭が真っ白になった。そして、慌てて、弁解したが、彼はどこかに行ってしまった。去り際にみた、彼の顔はあの時と同じような顔だった。


田中君と別れ、家に帰って一晩泣き明かした私は、彼にどうすれば許して貰えるか考えた。そして、私は、これまで以上に彼に尽くすだけではなく、私が彼しか見ないようにするくらいに尽くさなければいけないと感じた。私は、確かに夢現とはいえ、彼を傷つけてしまった。私は後悔と諦めない気持ちを胸に、彼を慰めた時以上に尽くす気持ちで彼の家に向かった。





あとあの田中とかいう野郎は彼への愛と誤解を証明する為に潰さなければならない。

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