第4話

今日も何も本音を話してくれず、学校にむかう我が子の背中を見守る。その度に思い出させられる、私が犯してしまった罪を…





私は、前の夫と離婚してから二児の母として、女手一つで姉妹を育て上げてきた。幸い、2人とも曲がることなく、優秀に育ってくれていた。そして、職場で彼の父親である、伊藤俊さんと出会い、親睦を深めていった。我が子である、姉の麗華と妹の結奈にも、俊さんのことを紹介して、再婚の了承を得た。そして再婚することとなり、俊さんの子供である、侑士君と会うこととなった。

彼と初めて会ったのは今は亡き夫と再婚し、新しく彼らの家に引っ越してきた日のことだった。彼はとても心優しく、父の手助けをよく行ってくれて、自慢の息子だということだった。私達も出会うまでは、色々と不安であったが、すぐに彼を家族として受け入れることができた。そして、このような団欒がいつまでも続くと思っていた。あの事故が起こるまでは…




あの日は、彼が父の日の為にプレゼントを買いに出かけていた時のことだった。夫以外の私達家族にはそのことを伝えていたが、夫には友達と遊びに行くとしか伝えていなかった。朝は晴れていたが、昼頃に天気が急変しだし、ずっと豪雨が続いていた。そこで夫が彼を迎えにいくと言い出して場所を聞いたが繋がらなかった。私達はもう中学生なのだから、そんなに慌てることはないだろうと言ったが、こんな時にしか彼に父親らしいことは出来ないからと彼を探しに出かけていった。


次に電話があったのはそこから2時間後のことだった。彼が見つかったのかと思い、電話出て愕然とした。夫が事故にあい病院に運ばれたというのだ。侑士君にも電話したが繋がらなかった為、私達だけで病院へと向かったが既に手遅れであった。信号無視のトラックに跳ねられ即死だったそうだ。泣き叫び憔悴した私達は家に帰り、酷く落ち込んでいた。その時に、呑気に、笑顔で帰ってきた彼をみて、ついカッとなって心ない暴言を彼に放ってしまった。冷静に考えれば彼のせいではないことくらいわかるのに、彼のせいにしてしまい、あまつさえ彼のことを大事に思っていたにも関わらず、家族でないなどと言ってしまった。


正気に戻った時には後の祭りであった。父親を亡くしただけでなく、家族にも拒絶されて彼は私達のことを信じる事が出来なくなってしまっていた。人間不信に陥った彼に対して私達は何度も何度も謝ったけれど焼け石に水で彼が私達を信じることはなかった。一縷の望みとして縋ったのが私達より長く関係がある幼馴染の薫ちゃんだった。彼女は必死になって毎日彼を慰めた。そうして一年近くが経った頃ようやく彼は私達の前に姿を現した。


しかし彼は変わってしまっていた。薫ちゃん以外の誰にでも敬語で話し、一定の距離を置いて話していた。彼にいち早く謝っても彼はもう許しているの一点張りで彼からの私達家族への態度も変わる事なく、他人のような距離感のままだった。それから私は後悔の日々を過ごしていた。毎日のように話しかけ、彼が欲しそうなものなどもいち早く与えていた。いつの日かもう一度お母さんと呼ばれ、家族に戻れる日を…



そんなある日彼の態度がおかしかった。いつもより更に距離感を感じてしまう話し方だった。何があったのかは話してくれないが、今度こそは彼の味方になって助けよう、彼の為なら何でもしようと彼が出かけていった背中に向かって決意を新たにした。

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