第31話
家に帰ると陽子さんが珍しく既に帰宅していた。
「おかえりなさい。」
彼女へ挨拶を返す。
「ただいま帰りました。」
「早く仕事上がれたから今日はご飯私が作るわね。」
彼女はそう言った。なのでそのお言葉に甘えさせてもらおうと思う。そのまま自分の部屋に戻ろうとしたけれどそこでふとアルバイトの事を思い出した。
「すいません、少しお話しいいですか。」
陽子さんにそう問いかけると、彼女は火を消してこちらにやってきた。
「何かしら。」
彼女はやけに真剣な顔をしてこちらを見ていた。
「空いている時間だけでいいのでアルバイトをさせて欲しいのですが。もちろんこれまで通り夕食の準備などはしますので。」
俺はそう言った。何かを頼むのはいつぶりだろうか。
「もちろんいいけど…何か欲しいものでもあるの?それなら私が買ってあげるわよ?」
陽子さんはそう言った。
「いえ、社会勉強のためですので。」
俺はそう嘘をついて誤魔化した。彼女は暫く俺を見ていたが納得してくれた。
「それなら許可します。夕食の準備も少し遅くなるけどこれからは私がやるわよ?」
陽子さんはそう言ってくれたが、わがままを聞いてもらったうえでそこまでしてもらうのは申し訳ないので丁重にお断りした。
「どんな所で働きたいの?」
彼女は続いてそう聞いてきた。ここは素直に
「まだ考え中です。仕事内容よりも時間が合う所を優先して探そうかと思います。」
と答えておいた。すると彼女はそうとだけ呟いた。
すると玄関からただいまーと言う声が聞こえてきた。2人分の声がしたのでどうやら姉妹揃って帰ってきたようだ。
「あれ、お母さん今日は早いね。」
結奈さんがそう問いかけると先程俺としたようなやりとりが繰り返された。
そうして夕食の時間になり、食卓を囲んでご飯を食べていると、陽子さんがいつになく真剣に、
「結奈、麗華、侑士君がバイトを始めたいらしいの。だからこれから2人も家事を手伝ってね。」
と言った。2人は驚いた顔をした。それに対して慌てて、
「いえ、大丈夫です。皆さんにご迷惑をおかけする事はないようにしますのでお気になさらないでください。」
と弁解した。住まわして頂いている身で迷惑をかけるわけにはいかない。
すると、俺の返答を聞いた3人は傷ついた顔をした。何かまた傷つけるような事を言ってしまったのだろう。俺はいつも傷つけてばかりで嫌になる。
「そう、それならこれからもお願いね。忙しかったらいつでも言ってね。」
と陽子さんが俺なんかのことを心配してくれた。俺なんかを気にかけてもらっても俺は傷つけてばかりですごく申し訳なくなる。やはり一刻も早くこの家から出ていくべきだ。
「ありがとうございます。」
俺は精一杯の感謝の言葉を伝えて、食器を片付け部屋に戻る事にした。
その後の家族がどんな顔をしているのかなど知るはずもなかった。
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