第32話

久しぶりに仕事が早く終わったため、帰宅して夕食の準備をする。侑士君が平日はいつもしてくれているが、本来なら私の役目のはずだ。彼は何かと家のことをしたがる。決して自分のことのために時間を使おうとはしない。それがかつての私達のせいだと言う事は理解している。だから少しでも彼が自分のために時間を使うように、家のことをは私がしたい。


そんな事を考えていると、彼が帰宅した。帰宅した彼は夕飯は私が作る事をいうと私に心からの礼を言った。本来、家族の間でそのような事で礼を言う必要なんてないのに。


暫くすると、彼が話があると言ってきた。彼から自発的に話しかけてきたことなんてなかったために、私はすぐに話を聞きに行った。


内容はアルバイトをしたいから許可が欲しいというものだった。彼が何かをしたいと言ったのは初めてだ。もちろんやりたいことなら何でも応援するが、彼は学校に通うだけでなく家のこともやってくれている。アルバイトをするなら娘達にも家事をしてもらうよう頼まなければならない。これを機に少しでも本来あるべき家族の姿になっていけるようにしたい。

それはそれとしていきなりこのような事を言い出した理由が気になった。何か欲しいものがあるなら私が買ってあげるのだが、欲しいものがある訳ではないと言う。社会勉強のためだと言うが何か少しひっかかりを覚えるがとりあえず納得する。

次にどのような場所で働くのか尋ねるが、まだ決まっていないと言う。ますます何故疑問を覚えるが無理に尋ねる事はできない。

本当の家族なら無理にでも尋ねられるのだろうが、今の私には彼からの信頼がないということはわかっているのだから無理強いはできない。私はいつか彼が家族として信頼して話してくれるようになる時まで待つ事にした。


その後、娘達が帰ってきて先程のことについて話すと彼女達も驚いていた。彼がやっていた事を分担するように言うが、彼女達が答える前に彼がきっぱりと断ってしまった。そうなると、私達が言えることは何もない。彼との溝はまだまだ深いのだと言う事を再認識した。


その事に打ちひしがれている間に彼は自分の部屋に戻ってしまった。甘えることもせず、会話も最低限しかせずに丁寧な言葉で話す。そのようなことが家族の間の関係であっていいはずがない。私は、いつか彼とまた昔のように本当の家族になれる時まで私がした事を償わなければならない。


しかし、何度も謝罪したし何を言われようと償うつもりもある。けれど、彼はその度に赦し、何も求めない。


償って本当の家族になる道はまだまだ果てしなく遠い。

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自己肯定感皆無の男のラブコメ @NaNasinoGonBeeeee

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