自己肯定感皆無の男のラブコメ

@NaNasinoGonBeeeee

第1話

ユ、ユウ!?な、なんでここに?」


あれはある日の夕方ごろのことだった。

彼女との予定が突然キャンセルになったため、来週に控えた彼女の誕生日プレゼントを探しに行こうと街をぶらついてると、ホテルから楽しそうに男と手を組んで出てきた彼女であり幼馴染の北山薫に遭遇した。


「君との予定がなくなったから街中に出てきたんだよ。それで君は何をしているのかな?」


声に僅かに怒気を込めて尋ねると、


「これは違うの!」


と彼女に伝わったのか焦りながら答えてきた。そうして慌てて腕を振り払うけれどしっかりと目撃済みである。


「随分と楽しそうだけどデートだったかな?邪魔しちゃってごめんね。」


するとここまで黙っていた男の方が話し出した。


「あー伊藤じゃないか。まだ薫の彼氏のつもりだったのか。お前はとっくに捨てられてるんだよ!今まで勘違いご苦労さん!」


そう言って嘲笑ってきたのは同じクラスであり、薫と同じバスケ部に所属している田中洋介だった。

薫は学年中から人気があるポニテが似合う美少女で、側から見ると、美青年の洋介とはお似合いのカップルであり、最近学校でも一緒にいる姿をよく見かけた。さらには彼女との予定もここのところ合わず、何回デートに誘っても「予定がある」の一点張りだった。

もともと平凡で彼女とは釣り合わないと思っていた俺は、彼女からの要望によって、学校で付き合っていることを隠していた。そして、彼女も話しかけてくることもなかったため、周りから見れば関係が何もない、赤の他人にしか見えなかっただろう。彼女は人気者であり、俺は静かに本を読んであるのが似合うモブであった。そんな時期が続き、いつしか俺は、彼女に捨てられたんではないかという考えが頭をよぎるようになっていた。


そして、今日、こうして実際に、その現場を目の当たりにしてしまい妙に納得がいってしまった。俺がそのように考えているなどつゆ知らず、向こうでは


「違う!私は洋介の彼女じゃない!」


と何故か彼女が否定していた。

俺はそこで、彼女が下の名前でほかの男を読んでいることに不快感を覚え、小さな男だなと自嘲してしまった。

確かにこんな小さな男なら浮気されて当然だなと思い、


「そっか、お幸せに」


と言い残してその場を駆け足で去った。





「ただいま帰りました。」

夜、家に帰ってきた俺に義姉が、


「こんな遅くまでどこに行っていたのだ?もう晩飯は食べてしまったからないぞ。」


彼女にそう言われたが、もともとそんな気分ではなかったため、


「いえ、大丈夫ですお先に失礼します」


と言って自分の部屋に引きこもった。





暗い自分の部屋で今までの彼女とのことについて思いを馳せていた。もともと彼女とは家が隣同士だった。父子家庭で育てられたため、彼女の家でも良く世話になっていた。小学校の時に父が再婚し、今まで住んでいた家に、新しく義理の母、姉、妹が引っ越してきた。

そして、楽しく平穏な日々を過ごしていた。この時は、俺もここまで卑屈になっていなかったのだと思う。


中学に入って2年が経った頃、父が亡くなった。たまたまその日は仕事が休みで、急に降り出した雨に傘を持って、出かけていた俺を迎えにいく途中だったようだ。事故だったそうだ。父の日のお祝いを買いに街に出掛けていた俺は、運悪くなのか携帯の充電を切らしていたため、家に帰って愕然とした。家族にも激しく責められ、俺は、唯一の肉親だった父を失い、義理の家族と暮らすようになった。そして、家族に責められ、家での居場所を失い、酷く落ち込んでいた俺を、懸命に励ましてくれたのが幼馴染だった薫だった。毎日学校が終わった後、家に来て、落ち込み、塞ぎ込んだ俺を懸命に励まし続けてくれた。

そして、どうにか立ち直った俺は、彼女に告白して、晴れて付き合うようになった。


しかし、今思えば、ただ彼女が同情して、付き合ってくれただけではないかと考えてしまう。彼女は中学でも人気者だった。それに対して自分はあまりにも平凡であり、付き合ってからも関係を隠すように言われた。これは、彼女の学校生活に邪魔になるからではないだろうかと考えてしまう。同情心から付き合だてしまった俺に、愛想が尽きたのではないかと…気分が酷く落ち込み、暗い部屋では、よくない事を考えてしまいそうで今日は早く寝ることにした。

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