第12話

私の家には母と妹、そして義弟がいる。しかし、私は義弟の事を家族ではなく同居人としか思えない。


どうやら私は部分健忘らしい。部分健忘はある期間の記憶の全て、もしくは一部を忘れてしまう。私の場合、母が再婚してから義父が交通事故で死んでしまうまでの義父と義弟のことを忘れてしまったらしい。どうやら義父の交通事故のショックが原因であるらしい。そのため彼のことは家族ではなくただの同居人と捉えてしまう。


彼はしばらくの間家に引きこもっていた。その為、彼と出会ったのは私が記憶にある限り、薫が彼のことを連れ出してからが初めてであった。そして、彼は私達に敬語で話す。家のことは彼は精力的にやってくれている。そのため、彼を家族として、義弟として受け入れようとしてもなかなかうまくいかなかった。


彼が高校に入学してきてから多少強引でも生徒会の仕事を手伝ってもらっているのもその一環だ。同じ仕事をこなしていればいずれ距離が縮まると考えたからだ。しかし、こちらもうまくいっていない。


そして、ある日、遅くに帰ってきた彼はどこか様子がおかしかった。いつもある距離間が更に遠く感じたのだ。今日は休日だったため、母親が晩御飯を作ってくれていた。もちろん彼の分も作ってあったが、あまりにも帰ってこなかったため、どこかで食べてきているのだろうと片付けてしまった。そのことを伝えると彼は無理に笑ったような顔をして壊れた人形のように歩いて部屋に引っ込んでしまった。何があったか聞こうと思ったが、彼はどうせ話してくれない。そのため、後に残されたのは私のやるせない気持ちだけだった。


その日を境に彼はより一層他人行儀になってしまった。私達に対しても更に拒絶の度合いが強くなっている。なんだかこのままどこかに消えてしまいそうな予感がして私は恐怖した。


これだけ拒絶されれば普通の人なら諦めるのかもしれない。しかし、私は彼をほっておくことができなかった。彼はとても頼りなく、儚く、すぐにでも折れてしまいそうな愛に飢えた子犬のように見えたからである。そんな彼を見ていると思わず抱きしめてあげたくなってしまう。知らない私が語りかけてくる。彼を愛せ。彼に償えと。



そして、私は知らなかったのである。彼がこうなった原因を。その一端が私のせいであるということを。

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