第11話

俺は昔からなんでもできたし、顔も良かった。女は勝手によってくるし、社交性もあったから友達もすぐできてクラスの中心に簡単になれた。だから乾いた日々を送っていた。あれはそんなある日のことだった。


中学からの帰り道、珍しく1人で帰っていると、前をある男が歩いていた。その男は特に変哲もなく普通の男に見えた。俺はすぐに興味を無くし、さらに先に目を向けた。赤信号の歩道に差し掛かったお婆ちゃんがそのまま進んでいったのだ。車もたくさん走っている。


(あっ死んだな)


と思ったが、前を歩いていた男が何とか救っていた。物語の主人公ならば颯爽と助けるのだろうがそいつは平凡だったため足を骨折していた。


とても驚いた。明らかにお婆ちゃんが悪く、死んでも何の文句も言えない。


憧れた。自分の身を文字通り犠牲にして助けたその優しさに。


それから彼と会うことはなかった。だからといって俺の生活が何か変わるわけでもなくただ、少しだけ良いことを行うようになった。


そして高校入学の日、彼は同じ学校にいた。心が踊るのがわかった。しかし彼は変わっていた。その優しさを見せず、怯えるように。そして、1人の女に依存していた。人違いかと思ってよく観察してみればそのことがわかった。彼を変えたのはこいつかと思った。


ただただ憤った。こんな姿になった彼に。こんな姿にした彼女に。そこで俺は女を引き剥がそうと画策した。女は顔は良かったので、ちょうど良いと思い、同じバスケ部に入り、仲を深める事にした。幸い、向こうも俺を利用しようと考えているようだ。

そして少しずつ女と仲を深めていき、ついに決定的なタイミングが訪れた。女を言葉巧みに誘導してホテルに行こうとすると、たまたま彼がいた。女は慌てて弁解しているようだが、もう遅いだろう。これで彼が元に戻るかもしれないと感じた。


しかし、実際にはそうはならなかった。彼は卑屈になってしまった。煽ったりしてみたがめぼしい反応もない。これでは足りないのか?それとも違うのか?俺は考えを巡らせ、もう一度あの時のヒーローに会うために何をすべきか悩み始めた。

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