第26話
暫く時が経ったのか、陽子さんと麗華さんの声が下から聞こえてくる。
「お帰りなさい、陽子さん、麗華さん。」
俺はリビングに降りて彼女達と挨拶する。それから夕飯を温めて皿に装い始める。すると、視線を感じたので振り向くと陽子さんがじっと俺のことを見ていた。
「どうしましたか?」
俺が彼女に尋ねると、
「何かあった?」
と尋ね返されてしまった。しかし心配をかけるわけにもいかないので、
「いえ、大丈夫ですよ。」
とこたえた。すると彼女は納得したのかそれ以上聞いてくる事はなかった。
食卓を囲んで夕食を黙々と食べる。他の3人は時々会話に花を咲かせているが、俺が話す事はほとんどない。話に入っていって家族の団欒を邪魔してはいけないからだ。
暫くして食事が終わると俺は片付けをして部屋に戻る。
「ゆうくん、どこ行くの?」
「勉強してきます。」
俺はそう短く答えて自分の部屋に向かった。
下からは賑やかな話し声が聞こえている。自分の部屋に1人でいるとあの時の事を思い出してしまいそうで何か気を紛らわさせようと考える。そこでバイトを探していた事を思い出す。そこで求人サイトを開いてみることにした。
気づけばいい時間になっていた。階下からの話し声はいつのまにか消えている。
暫く眺めていたがなかなかここと思うところが見つからない。高校を卒業したら一人暮らしをする予定なのでそれまでにできる限りお金を貯めなければいけない。また、休日は長時間働けるが、平日は夕食の準備があるので早く上がらなければならない。その条件で探してみるとなかなかあうものがなかった。そうこうしていたら、いつも寝る時間になってしまった。また明日にしようと思い、寝る準備をしはじめた。
翌日、家を出るとまたしても薫さんが家の前にいた。
「おはようございます。」
彼女に挨拶すると、
「お、おはよう。」
と少し気まずそうに挨拶が返ってきた。どことなく重い空気が流れる。このままでは俺なんかと一緒に登校してくれている彼女に迷惑をかけてしまうだろうと考え、
「昨日は貴重な時間をありがとうございました。」
と彼女に声をかけた。すると何故か更に空気が重くなった気がした。なぜだろう?と考えるが気のせいかなと思い直して、彼女をみると彼女はなんともいえない顔をしていた。
「ううん、こっちこそいきなり呼んじゃったのに来てくれてありがとう。」
と言ったきり黙り込んでしまった。そうして気まずい時間が流れる。彼女に不快な思いをさせる事はできないと俺は何とかしてこの空気を払拭しようと彼女と会話を試みるが、結局空気が変わる事はなかった。
そうしていると、学校に到着した。「私行くとこあるから。またね」と彼女はどこかへ行ってしまった。彼女に気を使わせてしまって申し訳なく思った。もう俺なんかとは一緒に登校してくれないかもしれないと思うがそれも仕方ないだろうと1人納得しながら自分の教室へ向かった。
あっ、顔が広い彼女ならいいバイトを知っているかもしれないなと教室に入る時になって気づくがもう遅かったので次彼女と話す機会がもし有ればでいいかと思い直し自分の席へと向かった。
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